タトゥーの人も入浴OKへ、温泉業界が変わる?
一般公衆浴場である銭湯には、地域により異なるが行政から補助金が降りるとともに固定資産税は免除され、さらにはもっとも大きな経費と思われる水道料金も実質的にほぼ無料で使用できるという。そのために、東京都ならば460円と入浴料金が都道府県で一律に価格統制され、また前述した生存権を保護すべく、入れ墨やタトゥーを入れた客を拒否できないというわけだ。
対して"その他の公衆浴場"であるスーパー銭湯などは、行政からの補助金もない完全な民間企業。入浴料も自由に設定できれば、アルコールを提供したりリラクゼーション設備を備えていたりと、「健康で文化的な最低限度の生活」には直接関係のないレジャー施設であるため、入浴を拒否しても生存権の侵害には当たらないという解釈がなされているのだろう。
「そうした経緯や法律的な背景もあり、90年代後半以降に入れ墨やタトゥーを入れた人の入浴を禁止する温浴施設が徐々に増え、全国的に一般化していったという流れにある。たまに『当局の指導により』と看板に但し書きされている施設も見受けられるが、法律的にそれは出来ない。入れ墨やタトゥーの入浴禁止はあくまで施設自身の規制であり、法的根拠のあるものではない」(諸星氏)
シールで隠せば入浴OKの温浴施設では...
反社会的人物の排除を目的として始まった入浴禁止規定だが、ファッションタトゥーを入れる人が増え、また、タトゥーがより一般的な外国人観光客が増加し続ける昨今、そうした"自主規制"に限界があること、そして、これまで以上に冒頭で紹介したような問題が起こることも大いに考えられるだろう。
そんななか、旅館やスーパー銭湯の中にも規制を緩和する動きが出てきた。総合リゾート運営会社の星野リゾートが、昨春より全国12カ所で展開する傘下の温泉旅館「界」で、入れ墨・タトゥーのある客も、シールでカバーすることを条件に入浴を許可し話題となったのだ。
また、星野リゾートとほぼ時期を同じくして、昨年8月から入れ墨・タトゥーのある客でもシールで隠すことで入浴を許可しているのが、埼玉県大宮市の「おふろcafé utatane」だ。こちらは、関連施設から直送された天然温泉の露天風呂もある大浴場をメインに、お洒落な造りの館内でカフェめしやワインなどを提供。さらには無料で漫画やコーヒーなどが楽しめ、宿泊施設も併設する、主に若い女性をターゲットとしたカジュアルな温浴施設だ。
同店をはじめ、埼玉県内に4つの温浴施設を展開する温泉道場の三ツ石將嗣・執行役員兼メディア事業部長に、規制緩和へと踏み切った理由を聞いた。
「当社の企業理念は『お風呂から文化を発信』すること。今回の条件付きの入浴許可も、できる限り多様な文化的背景を持つ方が共存できるようにしたい、新しいことにチャレンジしたいという弊社の姿勢の現れであり、入れ墨・タトゥーのお客様を一律に入浴拒否とする業界の慣行に一石を投じたいという想いから始めた。これが業界さらには国民的な議論の活性化につながればと考えている。原則禁止のスタンスはそのままに、まずは試験運用として開始した」
【参考記事】「おもてなし」の精神で受動喫煙防止に取り組む京都