──『暮れ逢い』は「欲望」についての映画だというが。
フリドリックは恋をしてはいけない女性を好きになり、そのことを誰にも言えない。愛が募り、欲望がどんどん募っていく。僕は原作の小説を読んで、その姿にとても心を引かれた。
ロットとフリドリックは離ればなれの運命になり、2年間待つことを約束する。ツバイクの小説と同じように僕はこの映画で、「相手と一緒になりたいという欲望は時間に打ち勝てるのか」という問い掛けをした。ただ小説の結末はすごく悲しいから、僕はちょっと楽観的なものに変えさせてもらった。
──その結末だが、もう少し先の展開が見たいと思った。
それは次回作で(笑)。気持ちは分かるが、ツバイクの小説があそこで終わっているのに、僕が続けてしまえば大きな裏切りになるかもしれない。それに言ってみれば、彼らがあの先どうなるかは僕らには関係ない。面白いのはあそこまでなんだ。
──欲望を持ちつつ相手に簡単に触れないというのは、20世紀初頭という時代背景もあるだろうか。
確かに、欲望をスピーディーに消費しようとする現代と違い、あの頃はもう少し相手を大切にするとか、すぐに自分のものにはせず前段階を踏むというのはあっただろう。でも、そうした感情は今も時代錯誤ではないと思う。最初の日に体を許す女性を尊敬できるだろうか?
──そう思うのは個人的な体験から?
そうだね。僕自身はいわば「階段を上るような時期」のドキドキ感や陶酔感は、その行為以上に感じるものだと思ってる。
──何年か前に引退をほのめかしたが、今はもうその気持ちはない?
どうしてそれを言ったのかな。まあ、理由は分かっているんだけど......。
理由? ただ疲弊していた(笑)。1本か2本、興行的にあまりヒットしなかった作品があって、ちょっとうんざりしていた。
今までたくさんの映画を撮ってきたが、どの作品に対しても全身全霊を傾けてきた。手抜きをしたり投げやりな気持ちで臨んだことはなくて、絶対にいい作品になると信じて、いい作品になったと思ってやってきた。だからヒットという形でご褒美をもらえないと、すごくがっかりする。