ネットを駆使したダイレクトマーケティング
ただし、最近は文化の消費がかつてないほど細分化され、選択的になっている。その傾向は、バックストリート・ボーイズやイン・シンクの全盛期より間違いなく強い。音楽配信サイトのおかげで聴きたいものを選びやすくなり、自分が選んだものしか聴かなくなっている。
その中でワン・ダイレクションは、ツイッターなどで直接結び付いたファンにターゲットを絞り、こまめなダイレクトマーケティングを行っている。こうして彼らは商業的に成功しながら、「もう1つの世界」の関心をすり抜けている。
これはジャスティン・ビーバーが爆発的な人気を得たのと同じ戦略だ。唯一の違いは、ビーバーより行儀が良いこと。ビーバーのように10代前半の熱狂的なファンを持つアーティストは、羽目を外した振る舞いで世間の注目を集めるときもある。しかしワン・ダイレクションは、その手の話題でファン以外に名前を知られることはない。
さらに、彼ら5人にはカリスマ性がある。映画のプレミア上映会に若いファンたちが徹夜で列をつくるアイドルでは終わらない何かが。
「世間は彼らのことを『作られたスター』と言いたがる」と、『THIS IS US』のモーガン・スパーロック監督(『スーパーサイズ・ミー』)は言う。「そんなに簡単な話なら、どうしてこの15年間で彼らと同じくらい成功するバンドが出てこなかったのか。彼らはそんな先入観をはるかに超えている」
どのくらい超えているかを描いているところに、この映画の面白さがある。もちろん、密着映像にありがちな、「ここに到達するまでに彼らはあらゆる犠牲を払ってきた」という筋書きもある。息子になかなか会えないリアムの母親がコンサート会場の売店で等身大のポスターを買う場面は、ブラックユーモアも感じさせる。