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アカデミー賞候補入り、日本人夫婦の素顔

Cutie and Bullie

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──別れようと思ったことは?

乃り子 若いときは純粋だから、すごく彼を愛してた。作品にも人間性にもほれて。ところが、だんだん自分のサングラスがずれてくるわけよ。何これって、本当の姿が見えてきて。

 でも家を出ていくためには自分の絵で稼げるようにならなきゃ。絵が売れないのに出ていくと、ほかの仕事で稼ぐためにアートをやめなきゃいけない。それだけはできなかった。女性として屈辱的な気持ちがいつもあったけど、絵を続けるためには仕方なかった。

 それにどんな飲んだくれでも、息子のために父親が必要だと思ったから。そうこうしているうちに06年、彼が急に呼吸困難になって病院に担ぎ込まれたのよね。

有司男 ああ、飲み過ぎでね。

乃り子 そのとき急にガクッて弱くなったわけよ。

有司男 もう飲んでないよ、10年間。一滴も。

乃り子 7年でしょ! そうなると弱くなった相手を捨てるのは卑怯な感じがしてね。それと長く一緒にいれば情が湧いてくるものじゃない。例えば使い古した手袋も、新しいのを買うべきだけど捨て難いとかね。もう少し大事に使おうっていうか。だってジーンズだってある程度なじんだほうがいいでしょ。

──映画で「女性のアーティストが成功するには鍵のある部屋がいる」「ギュウちゃんとの苦労があったからキューティーが生まれた」と語っている。

乃り子 どちらも本音。それまでは油絵とかエッジングとかいろいろしたけど、自分の作品だとは思いながらも過去の作家の模倣のようになってた。ピカソもシャガールもレンブラントも何も超えていなかったのよね。 だからいつも私は本当にアーティストなのかと自問し続けていた。

 でもキューティーを作ったときに、これは完全に私のクリエーションだと、私はアーティストですって、堂々と言えるようになった。そのキューティーはギュウちゃんとの生活の中から生まれたわけで、だから過去を否定することはできない。

──妻を「秘書」呼ばわりするなど、ぞんざいな扱いだが。

有司男 そうだなあ。結局はどたばたで40年間過ごしたからね。「別れようぜ、この野郎」とけんかしながらも協力してやってきたしね。そういうのを映画で1本まとめて振り返ってみると、愛情が流れてたんだと感じるね。

乃り子 映画見て初めて愛情に気づいたんだって。

[2013年12月24日号掲載]

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