ハンはその技をどこで習得したか、どの程度の力量か。本人は語ろうとしないが、チョンと子分たちも出るカンフーの試合で勝てるよう、ドレを指導してくれることになる(ちなみに、映画の原題はリメーク版も「ザ・カラテ・キッド」だ。オリジナル版の人気にあやかるためだろうが、このタイトルはどうだろう。アメリカ人の観客の多くは空手もカンフーも区別がつかないかもしれないが、アジアの観客は違和感を持つだろう)。
素材はオリジナル版の焼き直しでも、演出の工夫がそれを補っている。いや、完全に補ってはいなくても、楽しめる場面がたくさんある。例えば、ハンがドレに上着を掛けろ、上着を取れ、上着を着ろと次々に命令して、ドレが面食らうシーンだ。
ドレ役のジェイデン・スミスは、ウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミスの息子で12歳。しなやかで敏捷、自信に満ちた小柄な少年は、オリジナル版の不器用でひ弱なダニエルとは正反対。演技の才能よりも親の七光が先行している感もあるが、父親のウィル同様、この子も持ち前の魅力で観客をノックアウトする。
ジャッキーの抑えた演技
一方のジャッキー・チェンは、このところ役を重ねるたびに、無駄をそぎ落としているようだ。この映画では、彼は1回だけ格闘し、1回だけ泣き、ほとんどしゃべらず、笑顔も見せない。それでいて、彼が演じる無表情なハンは最高に観客の心を揺さぶる。
リメーク版には難点もある。格闘場面は、血こそ飛び散らないものの、観客の年齢層を考えれば、暴力的過ぎる。ドレが新しい環境になじんでいく過程もあまりに安易だ。中国語を覚えなくても周囲に受け入れられるし、アフリカ系アメリカ人に向けられる冷たい目にもちょっとしか触れていない。
それでも、子供向け映画の多くが大人の感性で作った物語を子供に押し付けたものにすぎないなかで、子供の気持ちに寄り添ったこの映画には好感が持てる。
私にドレと同じくらいの年頃の息子か娘がいたら映画館に連れて行く。ただしその前に、やはり最高におすすめのオリジナル版をうちのリビングで上映するけれど。
(Slate.com 特約)
[2010年8月11日号掲載]
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