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「映画スター」の顔が作品の障害に
ただし、ジョリーという有名女優の存在がこの作品を特別なものにしているのは間違いない。ソルトに関する疑問は、ジョリーをめぐる謎と完璧なまでに重なるからだ。
物語が進むにつれて、ソルトが二重スパイ、あるいは三重スパイではないかという疑問が生じるが、ストーリーが二転三転するため、観客は永遠にソルトの本性にたどり着けないという気分にさせられる。
彼女は無慈悲な悪者なのか、自己を犠牲にして国を守る究極の愛国者なのか。次々に別の顔を見せるソルトの人物像は、現実社会でのジョリーのイメージに重なり合う。国連の親善大使として世界を救い、多くの孤児に手を差し伸べる聖者なのか、それとも、タトゥーを愛し、他人の家庭を壊す悪女の顔がいつ再び現れるかもしれないのか。
ジョリーは、バービー人形のように複数の顔を使い分けて生きている。ソルトとジョリーはどちらも、不意を突いて観客を魅了するしたたかな女性なのだ。
共演したブラッド・ピットとのロマンスが報じられたおかげで『Mr.&Mrs.スミス』がヒットして以来、ジョリーはスクリーンよりも実生活で圧倒的な注目を集めてきた。その名声が悪い方向に作用した最たる例が、彼女の出演作の中で最もシリアスな内容だった『マイティ・ハート/愛と絆』。ジョリーはテロリストに殺害された実在のジャーナリスト、ダニエル・パールの未亡人を演じたが、スクリーンに映し出されたのは人道支援に力を注ぐアンジェリーナ・ジョリー以外の何者でもなかった。もっと演技力があれば事情は違うのかもしれないが、ジョリーの存在は映画において多大な障害となっているのだ。
その点、「ソルトは何者か」というキャッチフレーズが付けられた新作『ソルト』は、ジョリーの強大な名声を巧みに利用している。『ソルト』は「アンジェリーナは何者か」というドル箱のイメージ戦略をスクリーン上で見事に再現してみせた。
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