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最後に高尚なイメージを作りたい?

 この番組には、ほかにもいわくがある。リバーズはジョニー・カーソンの『トゥナイト・ショー』のレギュラーの座を捨てて、この番組に懸けた。カーソンには二度と口を利いてもらえなかったと、リバーズは恨めしげに語る。

 彼女には、常にのけ者だという強烈な自覚がある。コメディアンのジョージ・カーリンの追悼イベントに向かう車中、彼女は「この手の催しには、いつもならお呼びが掛からない」と言う。追悼イベント自体が、カーリンの反権威主義的な姿勢に反するとケチもつける。だが、そう語るリバーズ自身が型破りな人生の果てに、今では一目置かれたがっている。
 
 リバーズは高尚なイメージづくりを狙っているようだ。監督のリッキー・スターンとアニー・サンドバーグは、ダルフール紛争や冤罪を扱う硬派なドキュメンタリーで知られる。リバーズに話を持ち掛けたのは、スターンの母親がリバーズの友人だったためだが、リバーズにとっても好都合のオファーだった。

 監督を選ぶに当たり、リバーズは時代の波を意識した。リアリティー番組全盛の今は、映画監督が伝記作家の役割を担う。被写体の人生をつぶさに描くが、厳しいことは言わず、判断は観客に委ねる。

 ジェームズ・トバック監督は08年の映画『タイソン』で、マイク・タイソンを批判したりはしなかった。タムラ・デービス監督は09年の『ジャン=ミシェル・バスキア──輝ける子供』で、80年代のニューヨークのきらびやかなアートシーンを再現した。どちらも、主人公との打ち解けたインタビューが中心になっている。

 大物を描くドキュメンタリーには、微妙な駆け引きが要る。作り手が厳しい質問をすれば、主人公は心を閉ざしかねない。

 自分を撮った監督たちと国際映画祭で肩を並べることで、リバーズは自分もアートな世界の一員だと言いたかったのだろう。確かに普段の仕事よりは、はるかに高尚な舞台だ。

 リバーズは、テレビショッピング専門局の現役司会者でもある。自分の名の付いたジュエリーのラインを売り込むときのように、彼女は本音を小出しにしながら自分を語る。見る側は、気が付けば彼女の世界に引き込まれている。関心のなかった安いブローチをつい買ってしまうときのように。

[2010年6月 9日号掲載]

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