コラム

ウクライナを広島になぞらえたゼレンスキー...戦争と核の悪夢を未来に残さないための重い問いかけ

2023年05月23日(火)18時56分
原爆死没者慰霊碑に献花したゼレンスキー大統領と岸田首相

原爆死没者慰霊碑に献花したゼレンスキー大統領と岸田首相(5月21日) Ministry of Foreign Affairs of Japan/Handout via REUTERS

<ウクライナのゼレンスキー大統領はG7広島サミットに出席し、「ロシアの攻撃で焼け野原になった街は原爆投下後のヒロシマと似ている」と語った>

[ウクライナ中部クリヴィー・リフ発]広島での主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席したウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は21日、「私は戦争で歴史の石に影だけを残して消し去られる運命にあった国からここに来ました。しかし英雄的な国民は戦争そのものを影にするよう歴史を転換しています」と演説した。

ゼレンスキー氏は広島平和記念資料館(原爆資料館)で見た「人影の石」のメタファー(隠喩)を演説に取り入れた。爆心地から260メートルの銀行支店の開店前に入口階段に腰掛けていた人はその場で死亡したと考えられている。原爆の強烈な熱線により階段は白く変色し、腰掛けていた部分は影のように黒くなった。

「敵が通常兵器を使用しているとはいえ、ロシアの爆弾や大砲で焼け野原になった私たちの街はここ(原爆資料館)で見たものと似ています。ヒロシマは見事に再建され、現在に至っています。ロシアの攻撃で廃墟となったすべての都市を、一軒の家も残っていないすべての村を再建することを私たちは夢見ています」

ゼレンスキー氏は「ロシアはわが国最大かつ欧州最大のザポリージャ原発を1年以上にわたって占拠しています。ロシアは世界で唯一、戦車で原発に発砲したテロ国家です。原発を武器や砲弾の貯蔵所として利用した国は他にはありません。ロシアは原発の陰に隠れて、私たちの都市にロケット砲を撃ち込んでいるのです」と非難した。

「ロシア軍は放射能汚染物質が埋まる森に塹壕を掘っていた」

ウクライナは1986年のチョルノービリ原発事故を生き抜かなければならなかった。今も国土の一部は立ち入り禁止になっている。「この地帯でロシア軍は攻勢をかけてきました。旧ソ連時代に放射能汚染物質が埋められた森の中に塹壕を掘っていたのです。ロシアの悪と愚かさをそのままにしておくと、世界がボロボロにされるのは必至です」

ゼレンスキー氏は「戦争が歴史の石に影を残すだけとなり、それが資料館の中でしか見ることができないよう世界中のみんなができる限りのことをしなければなりません」と力を込めた。核兵器による威嚇はウラジーミル・プーチン露大統領の常套手段だが、万が一にでも使用される事態になれば、その被害と影響は計り知れない。

オールジャパンでウクライナに車いす1000台を届けるプロジェクト「Japan Wheelchair Project for Ukraine」第1便のうち100台が寄贈されたキーウ近郊のイバンキフ村の社会サービス地域センターのナタリア・ネステレンコ所長(62)は「チョルノービリ原発事故の影響で多くの人が筋骨格系の障害に悩まされています」と語る。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、核実験再開の提案起草を指示 トランプ氏

ビジネス

米ADP民間雇用、10月は4.2万人増 大幅に回復

ワールド

UPS貨物機墜落事故、死者9人に 空港は一部除き再

ワールド

トランプ氏、選挙での共和党不振「政府閉鎖が一因」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 6
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    中国の大豆ボイコットでトランプ関税大幅に譲歩、戦…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story