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現代的なデータ報道のニュース体験は「読む」から「体験する」に変わっていく

2024年02月07日(水)11時10分
荻原和樹(Google News Lab ティーチング・フェロー)

しかしデジタル時代のニュースにはそれらの垣根がない。ひとつのコンテンツの中で読む、観る、選ぶ、操作する、といった体験が混在することになる。それらを可能な限り包括的にひとつの動詞で表すとしたら「体験する」となるだろうか。

そうしたデジタル環境における「体験」をフル活用した作品の嚆矢が、ニューヨーク・タイムズが2012年に発表した「スノー・フォール」だ。同年2月にワシントン州で起きた雪崩について、関連人物へのインタビュー動画や航空映像、山中のインタラクティブな地図など多様な表現を活用し、翌年ピューリッツァー賞を受賞した。

本作のように文章、動画、グラフィックなど多彩なデジタル表現の活用によって没入感を演出するコンテンツは「イマーシブ(=没入感のある)・コンテンツ」と呼ばれた。

現代において「体験する」形のコンテンツとして世界の報道機関に使われる手法のひとつが「スクローリーテリング」(Scrollytelling)だ。スクローリーテリングは「スクロール」と「ストーリーテリング」を合わせた造語で、画面をスクロールすることにより、テキストによる解説とインタラクティブなグラフィックが並行して提示される。

たとえば、ロイターが2017年に発表した「ライフ・イン・ザ・キャンプ」というコンテンツがある。ミャンマー政府の迫害を逃れ、バングラデシュとの国境付近にある難民キャンプでの生活を余儀なくされる少数民族・ロヒンギャ族がおかれた苦境を報告するものだ。

本作では主に衛星から捉えた写真を活用しているが、静止画だけでは複雑な衛星写真の構成はわかりにくい。そこでテキストとグラフィックを並行して変化させることにより、複雑なビジュアルをストーリーとともに読み解くことを可能にしている。

海外では欧米の報道機関を中心に、2010年ごろからデジタル技術の報道活用が進められてきた。たとえば英国では2011年に暴動が発生し、当時のキャメロン首相は「貧困が原因ではない」と発言した。

ガーディアンはこの首相発言を検証する形で、暴動の逮捕者が居住する地域と各地域の貧困率をグーグルマップ上でオーバーラップさせ、彼らの住所が明らかに貧困地域に偏っていることを示した。

データを見せるだけではない。米国ニューヨーク・タイムズをはじめとした多くの報道機関はギットハブ(GitHub)というウェブサイトで報道に使ったデータやツールのソースコードを公開している。

ギットハブは元々ソフトウェア開発の現場で使われるツールだが、報道分野ではデータや分析手法の透明性を確保する試みとして使われている。先に挙げた新型コロナウイルスのダッシュボードでも、ギットハブでデータを公開したところ、報道や学術論文でのデータ部分の二次利用が相次いだ。

従来は新聞紙やテレビ番組が報道のほぼ唯一のアウトプットだったが、多業種の知識やツールを取り入れることで、報道が社会に対してできる貢献方法も変わりつつある。

翻って日本では、世界に比べると数歩遅れているのが現状だ。

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