2023年7月に中国で施行された改正反スパイ法には、スパイ行為と見做される行為として、国家の機密や情報、国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品などを収集することが列挙されている。
だが、ここで言われている国家の安全や利益とは具体的にどのようなものを指すのか、明らかにされていない。まるでチャイナ・ウォッチャーに向けて、「中国を勝手に分析するな」と強い警告が突き付けられているような状況だ。こうした状況が長引けば、中国研究の発展は見込めないし、中国をめぐる対外関係の健全な発展は望めないだろう。
このような重苦しい状況が今後も続くのか、或いは一過性のものでやがては収束するのか、現時点で見通すのは難しい。かつてのような鷹揚な「中華」そして「中国」と、再び真摯に向き合える日は来るのだろうか。
松本はる香(Haruka Matsumoto)
日本国際問題研究所研究員を経て、2005年日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所入所。台湾中央研究院欧美研究所客員研究員(2010-11年)、北京大学国際関係学院客員研究員(2011-12年)などを務める。現在、同研究所地域研究センター東アジア研究グループ長・主任研究員。専門分野は、東アジア冷戦史、中国外交、台湾をめぐる国際関係。近著に『〈米中新冷戦〉と中国外交──北東アジアのパワーポリティックス』(白水社、2020年)など。
特集:中華の拡散、中華の深化──「中国の夢」の歴史的展望
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