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国際政治

ミッテランに直談判し、国有化に反対したフランス軍需産業トップ──「ミラージュ戦闘機の生みの親」マルセル・ダッソー(下)

2022年10月11日(火)08時02分
上原良子(フェリス女学院大学国際交流学部教授)

フランスの壁を越えた男──選択と挑戦と

マルセルは激動の20世紀を強運と共に生き抜いた。フランスには様々な壁に仕切られた類型が存在する。ゴーリスト、社会主義、共産主義といった政治イデオロギー。国家のあり方。官と民。エリートと庶民。多くはその壁を越えられず、類型の中で生きていく。

しかしマルセルは、常識に捕らわれず、自ら選択し、壁を飛び越えた。それは無謀な挑戦であったかもしれない。自ら戦闘機の製造を手掛けたこと。ナチスの収容所からのサバイバル。共産主義者とのイデオロギーを越えた取引。アメリカの巨大企業との競争。武器商人として国家の庇護を受けながら、自律を貫いたこと。

それは単なる経済的利益のためだけではなく、あくなき好奇心と、フランス社会への奉仕が根底にあった。マルセルが愛されたゆえんであろう。

長いものに巻かれず、自らの選択と挑戦を貫いたマルセル・ダッソー。その姿勢は、混沌とし、価値や秩序がゆらぐ今日において、1つの光明を見いだすカギとなるのではないだろうか。


[参考文献]
Pierre Asseline, Monsieur Dassault, Balland, 1983.
Jean-Pierre Bechter, Luc Berger, Claude Carlier, L'épopée Dassault, Timée-Editions, 2006.
Lucie Béraud-Sudreau, French Arms Exports, The Business of Sovereignty (Adelphi series), Taylor and Francis(Kindle), 2020.
Claude Calier, Dassualt de Marcel à Serge, Perrin, 2017.
Claude Carlier, Marcel Dassault, La Légende d'un siècle, Perrin, 1992.
Claude Carlier et Luc Berger, Dassault, les programmes l'entreprise, Editions du chêne, 1996.
Marcel Dassault, Le Talisman, Jʼai lu, 1970.


上原良子(Yoshiko Uehara)
1965年生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。パリ第一大学歴史学部にて、DEA取得。一橋大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。静岡英和女学院大学短期大学部国際教養学科助教授などを経て、現職。専門はフランス国際関係史・ヨーロッパ統合論。著書に『戦後民主主義の青写真』(共編著、ナカニシヤ出版)、『フランスと世界』(共編著、法律文化社)、『ヨーロッパ統合史』(共著、名古屋大学出版会)などがある。


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 特集「経済学の常識、世間の常識」
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