この研究では509組のイギリス人の同性の二卵性双生児のデータで、ダニーデンのケースと同様の方法で自制心が計測され、その結果、双子であったとしても5歳の頃の自制心が低い方は、12歳の時の成績が悪く、問題行動が顕著であることがわかっている。
つまり、同じ家庭で育ち、よく似た遺伝子を持つ双子であっても、5歳の頃には自制心に違いが出るという状況が生じ、その格差が長期にわたって影響するというのだ。
また、過去に行われた34の調査をまとめた研究では、非認知能力は寿命にまで影響を与えることがわかっている。勤勉性や外向性は、認知能力やその人の置かれた経済状況よりもはるかに長生きに大きな影響を与えているのだ[Roberts et al, 2007]。
1970年と2000年に生まれた子供を比較した最近の研究では、母親の学歴が及ぼす子供の非認知能力の格差は2000年の方が拡大していることを示している[Attanasio et al, 2020]。
同様に、調整、交渉、説得などを行う「社会スキル」が、2000年代の労働市場において特に重要になってきていることを指摘したのは、ハーバード大のデビッド・デミング教授だ。皆さんもご存じの通り、コンピューターなどの技術の進歩によって自動化や機械化が進み、私たちに求められる仕事のスキルは大きく変わろうとしている。
※第3回 : 最高峰の学術誌で発表された「やり抜く力 GRIT」の育て方──非認知能力の重要性(下) に続く
[注]
(*2) 非認知能力についてもっと知りたい人は、京都大学の森口佑介准教授の『自分をコントロールする力──非認知スキルの心理学』がおすすめだ。
中室牧子(Makiko Nakamuro)
1975年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。コロンビア大学でPh.D.(MPA)取得。日本銀行、慶應義塾大学総合政策学部准教授などを経て、現職。専門は教育経済学。著書に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トウェンティワン)、『「原因と結果」の経済学』(共著、ダイヤモンド)などがある。東京財団政策研究所研究主幹、産業構造審議会、政府の諮問会議で有識者委員も務めている。
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