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国際政治

ロシア語とウクライナ語の間に明確な地理的境界線は存在しない──ウクライナ・アイデンティティ(上)

2022年04月18日(月)11時30分
アンドリー・ポルトノフ(ベルリン・フンボルト大学客員教授)※アステイオン81より転載

ウクライナの言語状況には多くの特殊性がある。

・ロシア語とウクライナ語の間に明確な地理的境界線が存在しない。幾つかの社会学的調査によれば、35-40%の人口がロシア語のみ、あるいは主にロシア語を話し、同じ割合の人口がウクライナ語のみを話す。そして、およそ20%がロシア語と同程度にウクライナ語を使用するとした。

・正式な公用語の地位にありながら、ウクライナ語はロシア語よりも「地位が低く」権威を欠き、有力でもなく、しばしば「村の言葉」と受け止められている。

・教育や人文学においては、ウクライナ語は支配的であるものの、ロシア語はマスメディア、政治、ビジネス、科学の分野において明白に浸透している。

・特定の人物がどちらの言語を好むかということと、その人物の政治的・地政学的指向性の間には直接の相関関係はない。

・公式の「二言語主義」に賛成票を投じるのは主にロシア語のみを話す人々である。逆に、反対する傾向にあるのは、本当に2言語を話すことができる人々である(ウクライナでは、ウクライナ語の話者はロシア語が判らないということはほとんどなく、ロシア語の使用も日常的である)。

※第2回 : ウクライナ史に登場した「ふたつのウクライナ」とは何か──ウクライナ・アイデンティティ(中) に続く

翻訳:五十嵐元道(北海道大学大学院法学研究科助教、現・関西大学政策創造学部准教授)

[注]
(1)Volodymyr Kulyk, 'Normalisation of Ambiguity: Policies and Discourses on Language Issues in Post-Soviet Ukraine', in History, Language and Society in the Borderlands of Europe, edited by Barbara Törnquist-Plewa. (Malmö: Sekel, 2006). pp. 117─40.

アンドリー・ポルトノフ(Andrii Portnov)
1979年ウクライナ生まれ。ポーランドのワルシャワ大学でカルチュラルスタディーズ、ウクライナのドニプロペトロウシク大学で歴史を学ぶ。現在は、キエフのウェブサイトHistorians.in.uaの編集主幹。キエフとベルリンに在住。専門は中・東欧の歴史、思想史。著書にUkrainian Exercises with History(in Russian, 2010)、Historians and Their Histories(Iin Ukrainian, 2011)など[以上プロフィールは、2014年当時のものである]。2022年4月現在、ドイツ・ヴィアドリナ欧州大学教授。


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