けれども時が経つにつれ、山崎さんは自らのオーラルヒストリーもまた一つの舞台だった、改めて世の中に出せると考えたのかもしれない。そのために必要な加筆や修正を行って、出版社に原稿を渡した。そのせいか、この本は時に質問者を飛び越え、山崎正和の作品として読者に強い調子で直接語りかける。舞台を設け役者を配することにおいて山崎さんに負けず劣らず巧みな御厨さんが、こうなるのを予想してこのオーラルヒストリーを始めたのだとしたら、それもまた大したものだ。
役者は上手から下手から現れ、必死に演じ続けるが、上演時間は限られている。一体だれが舞台を回しているのか、舞台はどのように回っているのか。舞台は回せるものなのか。山崎さんだけでなく我々一人一人に、言葉のより根源的な意味で題名が問いかけるこの本は、やはり実におもしろい。
阿川尚之(あがわ なおゆき)
同志社大学特別客員教授
vol.101
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