タリバンとパキスタンがまさかの「仲間割れ」、現地の勢力図に大きな変化が

2022年1月13日(木)11時18分
マイケル・クーゲルマン(ウッドロー・ウィルソン国際研究センター上級研究員)

<パキスタンが設置していた国境の「柵」をめぐり、両軍兵が衝突。互いを必要とするはずの両者は妥協点を見いだせるか>

昨年8月、タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧すると、隣国パキスタンでは歓喜の声が上がった。なにしろタリバン運動の発祥地だし、アフガニスタンに友好的な政府ができるのは大歓迎。一貫して親米政権を支持してきた天敵インドの影響力低下も必至だ。

しかし、そんな蜜月の終わる兆しが見えてきた。両国の国境、いわゆる「デュアランド線」での不穏な動きだ。

昨年12月19日にはアフガニスタン東部の国境地帯で、パキスタン側の設置した有刺鉄線のフェンスをタリバン兵が実力で撤去した。年末の30日にも似たような摩擦が南西部であった。フェンスの設置は2014年から、国境紛争と密輸を防ぐためと称してパキスタン側が進めていた。

この2回目の摩擦を受けてタリバン政権は強く反発。国防省の広報官は年頭の1月2日に、パキスタン側には「有刺鉄線で部族を分断する権利はない」と主張した。ここで言う「部族」は、国境の両側で暮らすパシュトゥン人(アフガニスタンでは多数派だ)を指す。別のタリバン広報官は、「デュアランド線は一つの民族を引き裂く」ものだとし、その正当性を否定した。

この国境線は1893年に英領インドとアフガニスタンの合意で成立した。だが1947年にパキスタンが独立して以来、歴代アフガニスタン政権はデュアランド線に異議を唱え続けてきた。

自分たちはパキスタンの代理勢力ではない

ただ、タリバン側の動きには他の思惑もありそうだ。自分たちはパキスタンの代理勢力ではないと、対外的に主張したいのかもしれない。多数派のパシュトゥン人にすり寄るためという見方もできる。

フェンスの存在が国境を越えた人流・物流の妨げになるという現実的な問題もある。タリバン構成員には今も、パキスタン側に家族を残している者が少なからずいる。

年明け早々、パキスタンとタリバンは交渉を通じて国境間の緊張を解くことで合意した。だが容易ではない。パキスタンの外相も「外交的に解決できると信じたい」と、心もとない発言をしている。

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