「なぜ喫煙者は新型コロナウイルスに感染しにくいのか」 広島大が発見した意外なメカニズム

2021年11月8日(月)16時04分
谷本圭司(広島大学 原爆放射線医科学研究所 准教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

今回の研究でAHRという名称を見た瞬間に当時の記憶がよみがえり、「これは使えるんじゃないか」と考え、実験を実施。結果、「AHRという受容体を介して『ドア(ACE2)』の量を減らす」というところまでは確認できました。

他にもAHRを活性化させるものはないか、論文を調べたり実験を重ねたりしたところ、もうひとつの化合物を発見しました。それが、ブロッコリーなどに含まれる「トリプトファンの代謝物」です。

本当に、新型コロナ感染を抑制するのか

トリプトファンとは、必須アミノ酸(タンパク質を構成するアミノ酸のうち、体内で十分な量を合成できず栄養分として摂取しなければならないアミノ酸)の一種で、ブロッコリーをはじめ、豆や鶏卵などの食品にも含まれています。このトリプトファンが、体内で酵素や腸内細菌によって分解された結果として生じた化合物が「トリプトファン代謝物」で、これがAHRを活性化することが報告されています。

ここまでさまざまな研究を重ねてきましたが、「本当に新型コロナウイルスに感染しにくくなるのか?」という点を明らかにしなくてはなりません。そこで、オメプラゾールとトリプトファン代謝物を用いて、新型コロナウイルスが細胞に感染する(細胞に侵入する)量が抑制できるかどうかの実験を行いました。

実験では、ヒト細胞の培養液にAHRを活性化する化合物(オメプラゾールまたはトリプトファン代謝物)を加えた状態で、新型コロナウイルスを感染させた後、細胞内に入り込んだ(感染した)ウイルス量を比較しました。その結果、化合物の濃度が高くなればなるほど感染ウイルス量が低下することが確認できました。

「オメプラゾールやトリプトファン代謝物によってAHRが活性化することで、ウイルス受容体であるACE2発現量を抑制し、その結果としてウイルス感染量を減らすことができる」ことが証明されたのです。

これらの結果から、新型コロナウイルス治療薬としての可能性が示されました。今後は、今回の研究結果をさらに深化・発展させ、治療薬の開発に応用したいと考えています。

ウイルス変異株でも影響しない

現在、新型コロナウイルスに感染した患者の治療には、他の病気の薬で新型コロナへの効果が確認されたものなどが使われていますが、まだ特効薬はありません。また、国内外の製薬会社をはじめ、多くの新型コロナウイルス感染阻害薬の開発が行われていますが、いずれも治験段階です。

現在、開発が進められている治療薬は、「感染しにくくするための薬」と「感染後に重症化するのを防ぐ薬」の2つのタイプに分類できますが、私たちが目指す治療薬は前者のタイプで、「感染予防または感染初期の軽症患者に投与することで重症化を防ぐ薬」です。

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