悪夢のシリア内戦から10年、結局は最後に笑ったのは暴君アサド
制裁はもはや無意味
「シリアをアラブ連盟に復帰させればシリア国内でも徐々に『汎アラブ主義』が強まり、結果としてシリア政府はペルシャ人の国イランを遠ざけるだろうという怪しげな考えを、エジプト政府は受け入れているようだ」と、シェンカーのリポートにはある。
「地域の他の国々も似たようなもので、イスラエルの安全保障当局にさえ、内戦後のシリアではロシアの存在がイランの侵入を防ぐ抑止力となり得るという信じ難い見解を持つ者がいる」
こうした見方はどれも、アサド政権に対するアメリカ政府の公式見解と相いれない。アメリカとシリアの外交関係は断絶したままであり、それぞれの大使館は閉鎖され、和解への明確な道筋はない。
それでも水面下では微妙な変化があるようだ。「バイデン政権は、アサドとの関係を正常化しないと言っているが、アメリカはそのアラブの同盟諸国がシリアとの正常化を試みても、もはや妨げようとしていない」。シェンカーは本誌にそう語った。
「シーザー法の制裁を本気で適用すれば、アラブ諸国がアサド政権との交易を含む『正常な』関係の回復に動くのを妨げられるかもしれない。だが各国政府の首脳級の交流が進むにつれて、アサド政権に圧力をかけ、孤立させるというトランプ時代の政策は無効化されている......今まではトランプの政策がアサド政権の完全な勝利を妨げてきた」とシェンカーは言う。「アラブ諸国がアサド政権との関係を再度正常化するなか、制裁の維持はますます困難になるだろう」
だがシリア国内には今も、外国の軍隊が勝手に駐留している。バイデン政権がアフガニスタンから米軍を撤退させ、「終わりなき戦争」の終結を宣言した後も、シリア領内にはまだ約900人の米兵が残っている。アサド政権にとっては由々しき事態だ。
アサド政権の最高顧問の1人であるブサイナ・シャアバンは本誌の取材に「今も国土の一部はアメリカとトルコの軍隊に占領されている。シリアの国土全体が解放されない限り、シリアの最終的な勝利について語ることはできない」と答えている。
シャアバンは、バシャル・アサドの父ハフェズ・アサドの時代から政権の中枢にいる大物だ。父ハフェズが大統領になったのは1971年。以来、アサド家による支配は半世紀にも及ぶ。