悪夢のシリア内戦から10年、結局は最後に笑ったのは暴君アサド
<大量の死者と難民を出した内戦を経ても、アサド政権は倒れずロシアとイランの支援を受けて国際社会に復帰しつつある>
いよいよ独裁者の運も尽きたぞと、10年前には思えたものだ。2011年のこと。シリアの若き大統領バシャル・アサドは平和的な抗議運動を武力で容赦なく弾圧した。これに反発する国軍兵士の一部を含む勢力が武装蜂起し、例によってアメリカを含む外国勢力が彼らを支援し、政権打倒を目指した。そんな構図ができたのはいいが、その後の展開は悲惨だった。
化学兵器による攻撃に一般市民が巻き込まれ、虐殺と拷問が繰り返され、推定でも死者は60万人以上。何百万もの人が住む家を追われ、シリア内戦は新しい世紀を血で染める衝撃の武力紛争となった。
アメリカは11年にアサド政権に対して経済制裁を科し、翌年には在シリア大使館を閉鎖。西側諸国の多くも追随し、アラブ連盟ですら、11年秋には一時的ながらシリアの参加資格を停止した。
そうしてアサドは世界中ののけ者になった──はずなのに、なぜか今も健在で、そして国際舞台に驚異のカムバックを果たそうとしている。
アサドは自ら内戦の火種をまいた。それでもアサドに代わる人物は現れず、10年たっても首都ダマスカスの宮殿には依然としてアサドが君臨している。イランとロシアによる後ろ盾も健在で、いつの間にか国土の多くを反体制派から奪還している。
アメリカは今もアサド政権を認めない立場だが、10年前にアサドを見限った国々の多くが、こうした現実を踏まえて彼をまた迎え入れようとしている。先月には、ヨルダンがシリアとの国境を再び開いた。アラブ連盟は近く、シリアの資格停止を取り消すものと予想される。
アサド政権の存続とどう向き合うか
「アサドは権力の座にとどまる」。14年までアメリカの駐シリア大使を務めたロバート・フォードは本誌にそう語った。「もはや反政権派が武力で彼を退陣に追い込む事態は想像できない。現実的に可能な代替策がない」
米国務省の分析官だった米平和研究所(USIP)特別顧問(シリア担当)のモナ・ヤクービアンに言わせると、政権交代が非現実的になった以上、今後の問題は関係各国がアサド政権とどう向き合っていくかだ。
「アサドにはロシアとイランの後ろ盾があるから、少なくとも中期的には政権を維持する可能性が高い」とヤクービアンは本誌に語った。「既に周辺諸国の多くは、この現実を認めている。今後は、この現実に沿った対応がますます顕著になっていく」
シリアと他のアラブ諸国との和解が進むのは確実だが、その先にどんな勢力図が描かれるかは不透明だ。とりわけ懸念されるのはアメリカの出方。それ次第で中東圏のみならず、国際的な勢力の均衡に影響が及ぶ。
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