タリバン政権復活、バイデンが検討すべきだった1つのこと

2021年8月16日(月)16時10分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

米軍撤退の正当性を会見で訴えるバイデン(7月8日) EVELYN HOCKSTEINーREUTERS

だが、ドナルド・トランプ前大統領が、バイデンの選択肢を狭めた。トランプ政権は昨年2月にタリバンと「和平合意」を結び、今春までにアフガニスタンから米軍を完全撤収すると約束した。

アメリカがこの合意に違反したら、米兵に対する攻撃を再開するとタリバンは警告していた。だから、バイデンがわずかでも米兵を残すことにすれば、タリバンの攻撃を受け、新たな犠牲者が出る恐れがある(昨年2月以降、米兵の死者は出ていない)。

建前論は国益を傷つける

長年アフガニスタンから手を引くことを唱えてきたバイデンにとって、トランプが結んだ合意は、むしろ完全撤収を正当化する理由の1つになった。

その発表に当たり、バイデンは引き続きアフガニスタンの安全を保障し、テロ組織の再台頭を阻止し、女性の権利を守ることを約束した。ただし、「地平線の向こうから」やるという。

これは希望的観測か、間違った状況説明の産物だ。

アフガニスタンから最も近い米軍の拠点は、1600キロ以上離れたカタールかアラブ首長国連邦の基地だ。これではアフガニスタンで何か起こったとき、迅速に、そして全力で対応するのは不可能だ。

それなのに8月10日の定例会見でも、ジェニファー・サキ大統領報道官は、この幻想を繰り返した。

「アフガニスタン国家治安部隊は、(タリバンに)反撃する装備と人員と訓練を備えている。それは交渉のテーブルにおける(アフガニスタン政府の)立場を強化するだろう」

楽観論ここに極まれりだ。どんな装備、人員、訓練も後方支援がなければ意味をなさない。それに交渉のテーブルなど存在しない。タリバンが和平交渉に本気で取り組んだことなど、久しくない。

いっそのことバイデンが、もはやアフガニスタンはアメリカの国益にとって重要ではなくなったから引き揚げると言ったほうが、よほど正直だろう。それなのにアフガニスタンを守ると言い続けるのは、かえってアメリカの国益を傷つけるだけだ。

米軍撤収後のアフガニスタンで、アメリカにそんなことをする能力はないのだから。

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