ラッド元豪首相の警告「習近平は毛沢東になりたがっており、しかもアメリカを甘く見ている」──米外交誌
習近平はあくまでも強気だが、中国政府中枢の意思決定者は重大な課題に直面しているとラッドは見る。ドナルド・トランプ前大統領の下でアメリカから武器を購入することによって台湾自身の防衛能力が底上げされている。民主的な台湾を軍事力で占領することから生じる中国支配の正統性に対する「取り返しのつかない損害」も問題だ。
だが、中国政府に最大の誤算があるとすれば、台湾有事の際のアメリカの出方だろう。中国はそれを予測できずにいる。
勝てないと思ったらアメリカ政府は戦わないだろうと予測することは、中国政府の「体にしみこんだ独自の戦略的リアリズムの投影」だとラッドは述べ、軍事作戦が失敗するとアメリカの威信と地位が失われる可能性があると、中国政府幹部は信じている、という点を指摘した。
「中国が計算に入れていないのは、その逆の可能性だ。第2次大戦以来アメリカが支持してきた民主主義国のために戦わなければ、アメリカも自滅しかねない。特にアジアにおけるアメリカの同盟国が、長い間信頼してきたアメリカの安全保障があてにならないと認識すれば、今度はそれぞれが中国と独自に取り決めをしようとするかもしれない」
立ちはだかるバイデン政権
ラッドの議論に関連するが、アメリカがアジアの安全保障に介入することに対するアメリカの有権者の認識は、戦略国際研究センター(CSIS)による2020年夏の世論調査で明らかになっている。同調査では、台湾、日本、韓国を含むインド太平洋の同盟国に対するアメリカによる安全保障をどの程度支持するかを問いかけた。
その結果、台湾の安全保障を支持する割合は10段階評価で6.69、日本と韓国はそれぞれ6.88、6.92となった。
国家主席の任期の制限を撤廃した習近平は2035年まで政権を維持するつもりだ、とラッドは予測した。任期の終わりには82歳になり、毛沢東の没年齢と同じになる。
習の野望を妨げる最大の問題は、アメリカと短期的にはジョー・バイデン政権だろう。国務省と国防総省だけでなく、情報機関にも経験豊富な中国専門家がいる、とラッドは言う。国際機関、貿易、テクノロジーに対する中国の脅威に対抗するために、世界の主要な民主主義国家を団結させるというバイデンの主張の説得力も、中国政府にとっては脅威となる。
中国指導部がトランプの再選を望んでいたのはまさにこのためだと、ラッドは言う。トランプなら、とくに外交におけるその失敗を習は利用することができたはずだった。