新型肺炎パニックの経済への影響は限定的
第2に、現時点で分かっている限りでは、新型肺炎の致死率はSARSより低い。同じく重要な点として挙げられるのが、中国当局がSARSの頃よりはるかに迅速に、情報統制からウイルス拡散防止に軸足を移していることだ。
感染者や感染が疑われる患者を隔離する中国当局の積極策によって、思ったよりもずっと早くウイルスを封じ込める確率は上がっている。そうなれば、今年1~3月期に失われる分の生産高は、年末までの活動増加によって相殺される可能性が高まる。
最後の手段になるのは
第3に、米中が1月15日に貿易協議の「第1段階」合意文書に署名したのは、中国側の担当者が新型ウイルスの問題を認識していたかどうかはともかく、実にラッキーなタイミングだった。マスクや医療用品の輸入を大幅に増やすことで、中国は公衆衛生上の危機に取り組むと同時に、合意に盛り込まれた購入拡大の公約を果たすことができる。
中国以外の国々の経済が受ける影響はさらに限られるだろう。多くの国の中央銀行はこの5年間、中国経済の減速が自国に与えるインパクトの評価モデルを開発してきた。これらのモデルは新型ウイルス危機を織り込んではいないが、中国と自国の貿易・金融面のつながりについては考慮している。
経験則に従えば、中国のGDP成長率低下が欧米経済に与える悪影響の規模は中国の0.2倍。例えば、新型肺炎流行によって中国の成長率が0.1ポイント下がった場合、欧米の成長率は約0.02ポイント低下する可能性がある。
コモディティ(1次産品)貿易や観光部門で中国との結び付きがより強いオーストラリアでは、影響の規模は欧米の2倍に及びそうだ。それでも0.04ポイントの減退は大した数字ではない。
こうした計算は、新型コロナウイルスがこれらの国に広く拡散せず、直接的な大混乱が起きなければ、との条件が前提だ。中国国外での感染者数が少ないことを考えると、そうした事態が起こるとは今のところ思えない。
もちろん、私の想定よりはるかに長く危機が続けば、中国と世界各国の経済が受けるダメージはより深刻になりかねない。だがそうなっても、中国にはまだ金融・財政両面の拡大政策という選択肢があることを忘れてはならない。
中国の金融部門の準備率は比較的高く、公的債務がGDPに占める割合は国力が同等の他国と比べれば対処可能な規模だ。この政策余地を必要に応じて利用することで、中国当局は危機の最終的な影響を限定的なものに抑えられるかもしれない。
中国、そして世界中が新型ウイルスの不安に駆られているのは当然だ。それでも経済的観点からすれば、パニックになるのはまだ早い。
<本誌2020年2月11日号掲載>
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