新型肺炎パニックの経済への影響は限定的

2020年2月6日(木)19時30分
ウエイ・シャンチン(コロンビア大学教授、アジア開発銀行元チーフエコノミスト)

<感染拡大で中国内外の株価が下落──それでも影響は限定的と考えられる3つの要因>

中国の最大都市の1つで交通の要衝、武漢で発生した新型コロナウイルスがパニックを引き起こしている。思い出すのは、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行当時の不安や不確実性だ。

何カ月もの間、上昇していた中国の株式市場は最近になって下落に転じ、感染拡大が中国経済や成長に与える影響への懸念を反映してか、世界各地の市場もその後を追っている。だがこうした懸念は、果たして正当なのか?

筆者の予測では、沈静化までにまだ一波乱あるはずだ。感染者・死者数はおそらく2月の第2週か第3週にピークを迎える。とはいえ中国当局とWHO(世界保健機関)は4月前半までに封じ込めを宣言するのではないか。

この基本的シナリオに沿って考えると、新型ウイルスの経済への悪影響はごく限られたものになるに違いない。2020年の中国のGDP成長率への影響は小さく、0.1ポイントほどの低下にとどまるだろう。今年の第1四半期は打撃が大きく、成長率は年率換算で1ポイント落ち込むかもしれないが、残りの3四半期のトレンドを上回る成長によって大幅に相殺されるはずだ。世界全体のGDPへの影響はさらに小さいだろう。

eコマースに救われる

こうした予測もまた、SARS流行当時を思い出させる。中国のGDP成長率は2003年第2四半期に大きく低下したが、残りの2四半期に記録した成長で大部分が相殺され、通年成長率は約10%に達した。多くのエコノミストは大きな打撃を予測したものの、2000~06年の年間実質GDP成長率を見れば、SARSの影響があったとは考えにくい。

新型肺炎流行のタイミングが1週間の春節(旧正月)連休の始まり、および学校休暇に伴う旅行シーズンと重なったことを懸念する声はある。人々が店舗やレストラン、駅や空港を避けるせいで経済的影響が悪化するとの見方だ。しかし3つの重要な要因によって、ダメージは限定的なものになると予想する。

第1に、eコマース(電子商取引)時代の今の中国では、オンラインで買い物をする人が増える一方だ。実店舗の売上高減少はオンライン購入の増加で相殺される公算が大きい。さらに、今回キャンセルされた旅行の多くは単に先延ばしされただけだと考えられる。旅行予算が丸々残っているのだから。

そもそも多くの工場が春節休暇中の休業を予定しており、感染拡大のタイミングのおかげで操業停止拡大が最小限で済んだ可能性がある。中国政府は1月26日に春節休暇の延長を発表したが、多くの企業はその分の損失を何らかの方法で埋め合わせるはずだ。従って、短期的な悪影響を被るのはレストランやホテル、航空会社だけだろう。

今、あなたにオススメ

今、あなたにオススメ