現代ヨーロッパの礎「平和、人権、統合」の3つの価値観が崩壊する

2018年7月24日(火)19時00分
イワン・クラステフ(政治学者)

20世紀初めにヨーロッパで最も民族の多様性が高かった中欧と東欧が、現在は民族の同質性が極めて高い地域になっていることは歴史の皮肉と言うべきだろう。一方の西欧は、増加する国内の外国人人口を統合するという課題に気を取られている。中欧は、若者の西欧への流出を食い止めるために必死の努力をしている。西欧は多様性への対応に苦心し、東欧は過疎化対策に手を焼いている。

問題の規模を把握するために統計を見てみよう。89~17年にラトビアの人口は27%、リトアニアは23%、ブルガリアは21%減少した。中東欧で起きている人口減少の究極的な原因は、高齢化と出生率低下と移住だ。東欧では、シリア難民の流入よりも、08年の金融危機のせいで国を離れた人のほうが多かった。

しかし中欧における反リベラリズムの台頭の中核にあるのは、人口移動をめぐる違いではなく、「模倣」の拒絶とでも呼ぶべきものだ。

89年以降の20年間、ポスト共産主義の中欧と東欧の政治哲学は、「西欧を模倣せよ」のひとことで言い尽くせる。このプロセスはさまざまに呼ばれてきた。民主化、自由化、拡大、収れん、統合、欧州化......。

しかし、共産主義後の改革者が追求した目標は単純なものだった。彼らは自国を西欧のようにしたいと思っていただけだ。

例えば自由民主主義制度を輸入し、西欧の政治・経済的手法を適用し、西欧的な価値観を公にたたえることだった。模倣は自由と繁栄への一番の近道だと思われていた。

第2次大戦の激しい空爆で瓦礫の山と化したソ連占領下のドレスデン(1945年) (c) Hulton-Deutsch Collection-Corbis/GETTY IMAGES

西欧の模倣からの脱却

ヨーロッパは共産主義と民主主義ではなく、模倣する者とされる者に分断された。だが外国モデルの模倣によって経済的・政治的改革を追求することには、道徳的・心理的なマイナス面が予想以上に多い。模倣する者の精神はどうしても、劣等感や依存心、アイデンティティーの喪失などが混在した状態に陥ることが避けられない。

模倣する者は幸せではない。自らの成功を誇ることができず、失敗ばかりにさいなまれる。

「ポスト45年」のヨーロッパは、戦争の記憶が消えてヨーロッパが自衛力を失ったが故に機能していない。「ポスト68年」のヨーロッパは、少数派の権利擁護と多数派の権利維持という矛盾ゆえに機能していない。

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