進化する人類──素潜り漁のバジャウ族、「脾臓が大きく」進化していた

2018年4月25日(水)17時15分
高森郁哉

伝統的に素潜り漁を行ってきた東南アジアの少数民族バジャウ族が、脾臓が通常よりも大きくなる遺伝子を持ち、無呼吸での潜水に適応する進化を遂げていたことが、最新の研究で明らかになった。

「海の遊牧民」バジャウ族

バジャウ族は主にフィリピン南部、インドネシア、マレーシアに暮らす少数民族で、人口は約100万人。彼らは伝統的にハウスボートに住み、東南アジアの海を移動しながら漁をしていることから、"海の遊牧民"とも呼ばれる。

バジャウ族は、木製のゴーグルとウエイトベルトだけの簡素な装備で、深度70メートル以上の海中まで数分間にわたり無呼吸で潜水するという驚異的な能力で知られる。このような素潜りを、1日8時間程度繰り返し行っている。

バジャウ族のこうした素潜り漁は、16世紀前半のヴェネツィア共和国の探検家の記録によって確認されている。一説では、彼らの素潜り漁の伝統は数千年にも及ぶ可能性があるという。

コペンハーゲン大の調査

コペンハーゲン大学の地理遺伝学センターに所属する研究者らがこのほど、バジャウ族の遺伝子と潜水能力の関係を調査し、米学術誌「セル」の最新号に論文が掲載された。英BBCなどが報じている

論文筆頭著者メリッサ・イラルド氏の説明によると、人間は息を止めて水中に潜ると、心拍数が低下し、四肢の血管が収縮して、血流量を減らすことで血液中の酸素を保とうとする。

さらに、脾臓も収縮し、酸素を含む赤血球を血流に放出することで、酸素の供給を助ける。したがって、脾臓が大きければ、それだけ無呼吸の潜水に有利にはたらくという。

イラルド氏らはまず、超音波装置を使って、バジャウ族の脾臓の大きさを測定。対照群として、同じ地域で伝統的に農業を行ってきたサルアン族の脾臓サイズと比べた結果、平均で約50%大きいことが分かった。さらに、バジャウ族の中で素潜りを行わない人についても、同様に大きな脾臓を持つ傾向があったという。

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