コラム

オバマが仕掛ける州対抗「教育改革コンペ」

2010年04月02日(金)13時00分

 オバマ政権の発足以来、常に話題の中心にあった医療保険改革も、ようやくひと段落。オバマ大統領の視線は、いよいよ第2のターゲットである学校教育の立て直しに向けられている。医療保険改革のように世論の注目を集めるには、ありきたりのアプローチではダメだと思ったのかどうかは定かではないが、オバマの教育改革はなかなかユニークな形でスタートを切った。

 アメリカの公教育の現場では人種や学校間の学力格差が根強く、国際的な学力比較調査でも、アメリカは先進国で最低レベルをうろうろしている。能力もやる気もない教師がはびこっているのに、教員組合の圧力で教師の査定さえ満足にできない州が多いのも大きな問題だ。

 教師の質を高め、生徒の学力を向上させる改革を猛スピードで進めるには、もはや州や学校の努力に任せてはいられない、というわけで、オバマ政権は昨年、景気対策パッケージから43億ドルを教育改革用に確保。さらに、そのカネを全米に広く浅く配る代わりに、州対抗レースを勝ち抜いた州だけが必要額を受け取れるという「トップへの競争」プログラムを立ち上げた。

 これは一言でいえば、各州が教育改革の中身を競い合い、オバマ政権のお眼鏡にかなった州だけが「賞金」をもらえるというコンペ方式。経済危機の余波で財政が厳しい州政府の鼻先に「人参」をぶら下げるような手法に批判もあったが、オバマは「アメリカ史上最大の教育改革投資の1つ」だと胸を張った。

 必要な法改正や基盤整備を突貫工事で進めて、第一回コンペに応募したのは41州。3月初めに16州の「ファイナリスト」が発表されると、「最終的には約10州が選ばれるらしい」「フロリダ州が優勢だ」といった噂話が飛び交った。

 30分のプレゼンテーションと60分の質疑応答を経て迎えた運命の3月29日、アーン・ダンカン教育長官は高らかにコンペの勝者を発表した・・・が、その結果を聞いた人々の間にはため息が広がった。

 選ばれたのは、デラウエア州とテネシー州の2州のみ。2州が受け取る助成金は計6億ドル程で、残る37億ドルは6月締め切りの第2回コンペにもちこされる(第2回コンペのために、13億5000万ドルの予算も別途計上されている)。

 全米の教育関係者を巻き込んだお祭り騒ぎの末に、大半の州は1ドルも手にできないという結末には、当然ながら失望と非難の声が沸き起こっている。

 ダンカンは、あえて厳しい基準を設けることで、落選した州が抜本的な制度改正に踏み出す後押しになると主張している。実際、選ばれた2州は、生徒の成績と教員の評価を連動させる仕組みや、チャータースクール(民間が運営する公立学校で、特色あるカリキュラムが多い)の数制限の撤廃、データを重視したカリキュラム開発などオバマ政権が推進したい施策をうまく盛り込んで高ポイントをゲットした。

 だが、そうした施策の是非については、もともと議論の分かれるところ。しかも、似たような改革案を掲げながら落選したフロリダ州やジョージア州などのケースもある。落選州では教員組合が改革案に反対しており、改革がスムーズに実行されないと判断されたようだが、組合が賛成しなければ国の補助金を得られないという図式ができれば、結局は教員組合の影響力アップという本末転倒の流れを生みかねない。

 それでも、厳格な基準を当てはめて2州にしか助成金を出さなかった判断は、総じてみればオバマ政権にとってプラスになりそうな気がする。支持率アップの起爆剤とするために幅広い州(特に中間選挙で民主党が苦戦しそうな州)に助成金を与えるのではないかという憶測は完全に外れ、少なくとも、教育改革を政治的に利用しないというメッセージは明確に伝わった。大金がかかった第2ラウンドの行方に国民の関心が集まれば(そして、今度こそ多くの州に助成金が行き渡れば)、政権浮揚の意外なきっかけになるかもしれない。


──編集部・井口景子

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