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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
日本経済には「失われた20年」の大きな貯金がある
参議院選挙が7月11日に決まったが、今回も「不毛の選択」といわざるをえない。民主党は鳩山首相から菅首相に代わっても「行き過ぎた市場原理主義」を嫌悪して所得再分配ばかりいう方針は変わらない。それに対して自民党は「小さな政府」という対抗軸を打ち出すことに失敗し、選挙の争点がよくわからない。あとの新党は、ポピュリズムや意味不明なものばかり。この調子では、日本経済の「失われた20年」は25年ぐらいに延長されそうだ。
しかし逆に考えると、自民党政権がこの20年間やってこなかった宿題は、解決すれば日本経済を大きく改善する可能性がある。そのうち最大の「貯金」は、当コラムでも取り上げた法人税である。日本の法人税の実効税率は40.7%と、OECD諸国で群を抜いて高い。第一生命経済研究所の推定によれば、これをOECD平均の25%まで下げれば、今後10年間で6兆円以上(GDP比1.2%)の成長が見込めるという。
しかし財務省は、税収減を懸念して法人税の引き下げには慎重だ。たしかに短期的には税収は減るが、長期的には企業の設備投資や海外からの対内直接投資が増え、企業の海外逃避が減ることによって税収が増える効果も期待できる。EU(欧州連合)では、経済統合にともなってルクセンブルクなどの法人税の低い国に合わせる租税競争が起こり、ここ30年で平均税率が50%から30%に下がったが、税収(GDP比)はほとんど変わらなかった。
財政赤字の是正も、消費税という強力な武器がある。先進国の平均は15%程度だから、10%上げれば年間20兆円の税収増が見込める。これは現在の税収のほぼ半分に相当する大きな財源である。これを基礎年金の財源に充当して年金改革を行なえば、深刻な世代間格差の問題も多少はましになるだろう。
他方、歳出も抜本的な見直しを避けたまま水ぶくれしてきた。特に大きいのは、一般会計の29.5%を占める社会保障支出である。菅首相は「強い福祉による強い経済」という意味不明のスローガンを掲げているが、いま必要なのは「効率的な福祉」である。今後、高齢化が進むと、毎年1兆円ずつ社会福祉予算は増えてゆく。年金や医療を個人勘定にするとか、負の所得税のようなルールで所得を再分配するなどのしくみによって、社会保障費の膨張を押さえる必要がある。
さらに本質的な貯金は、政府がずっと先送りしてきた規制改革だ。いったん雇用した労働者は会社が倒産の危機に直面するまで解雇できないという規制は、企業の労働需要を低下させ、若年労働者の非正規化をまねいている。これを緩和するとともに、新卒一括採用に片寄っている雇用慣行を改めれば、労働人口の移動によって労働生産性が向上することが期待できる。
競争を阻害する規制を見直す規制改革も重要だ。流通の近代化を阻害してきた大店法(大規模小売店舗法)は、いったん廃止されたものの、新大店法(大規模小売店舗立地法)としてよみがえった。薬品のネット販売を規制したり、理髪店に洗髪台の設置を義務づけたりする「コンプライアンス」の名による既得権保護も横行している。官僚が周波数を恣意的に割り当てる社会主義的な電波行政で、日本の通信業界は危機に瀕している。
自民党はこうした既得権者との約束を守り、問題を先送りして負の遺産を積み上げてきた。これは逆にいうと、民主党が当たり前の政策を実行するだけで経済を改善できる資産を残してくれたことになる。しかし官僚機構は業界との約束を破れないので、政治家に正しい情報を上げない。だから大事なのは、むやみに「政治主導」を呼号することではなく、民主党が自前の政策立案能力を高めて官僚の嘘を見抜く力を身につけることだ。政策シンクタンクに投資すれば、貯金を効率的に運用するリターンは非常に大きいはずである。
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