アステイオン

台湾

スポーツの国際大会では、なぜ「チャイニーズ・タイペイ」と呼ぶのか?

2023年05月31日(水)08時15分
野嶋 剛(ジャーナリスト、大東文化大学教授)
チャイニーズタイペイ・パラリンピック旗

チャイニーズタイペイ・パラリンピック旗 Creative Photo Corner-shutterstock


<「台湾には3つのWBC代表チームがある」というジョークは、どういう意味か。『アステイオン』98号の特集より「台湾で中華は限りなく透明になる」を一部抜粋する>


台湾には3つのWBC代表チームがある?

中華というテーマの扱いが世界で最も厄介な場所、それが台湾である。

台湾において、中華を論じることは迷宮に足を踏み入れることを意味する。議論を重ねても、その語りの最後は「ああ、この話は複雑すぎる(唉,這個問題太複雜了)」というため息で締めくくられてしまう。台湾人自身が「中華」とは何かを考えることをあきらめつつあるほどに。

その迷宮の入り口としては、いままさにこの原稿執筆時に熱戦が展開されていたワールドベースボールクラシック(WBC)がふさわしい。

筆者は3月上旬、神戸大学で日台野球交流に関するシンポジウムにゲストとして登壇した。そのQ&Aセッションでこんな質問がフロアから上がった。

「台湾には3つの代表チームがあるのですね、WBCにはどのチームが参加するのですか」

会場には、微妙な空気が漂った。この男性は、それまでの議論を誤解していた。しかし、会場の誰もがやむを得ないとも感じていた。よほどの「台湾通」でなければ、誤解するのが当たり前なほどややこしい話だからだ。

質問の前に、私はこんなコメントをしていた。

「台湾の選手が国際試合で戦っていると、ファンは、中華民国の旗を振りながら、『台湾加油(台湾がんばれ)』と叫んで、中華台北チームを応援するのです。よく考えれば、とても不思議な状況が起きています」

これに対して、当日台湾からシンポジウムに参加した台湾きっての野球研究者、謝仕淵・成功大学准教授はこう付け加えた。

「台湾では、中華チーム、台湾チーム、中華台北チームという3つのチームがある、というジョークがあります」

台湾のメディアでも、代表チームについて、「中華チーム」「台湾チーム」という呼び方が混在している。正式名称は「チャイニーズ・タイペイ」(中華台北)だが、台湾のメディアは決してそうは書かない。

フロアの男性が混乱するのも無理からぬところである。そして台湾を知ることは、この「中華」に絡んだ名称の迷宮の歩き方を、まず頭のなかで整理するところから始まると言っても過言ではないだろう。

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