パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
トヨタ バランシエンヌ工場 絶好調に見る欧州自動車業界の現実
日本の自動車メーカー「トヨタ(TOYOTA)」のバランシエンヌ(フランス北部ノール県)工場は、2001年の操業開始以来、500万台の車両生産を突破したことを発表し、これを記念して、青、白、赤のトリコロールカラーに塗装した「トヨタヤリスクロスSUV」を登場させ、お祭りムードの中で、同工場の雇用をさらに安定させていくことを発表しています。
これは、現在、欧州で業績下方修正が続き、労働者解雇が進む自動車産業の流れに逆行しているものとして、注目を集めています。
実は欧州でも堅調だったハイブリッド車
この時代に逆行しているといわれる「トヨタ バランシエンヌ工場」の絶好調は、この工場の運営はもちろんのこと、この工場の生産している車「ヤリスクロスSUV」=ハイブリット車モデルのヨーロッパにおける成長が支えています。
世界を揺るがす「脱炭素」こそ正義!の風潮の中、昨年の段階で、欧州議会は、「2035年から内燃機関搭載の新車販売を禁止し、EU圏内のガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車の新車販売を事実上停止し、欧州全体で本格的に電気自動車に切り替えていく方針」を発表しています。この規制案は賛成340票、反対279票、棄権21票で採択されていますが、この票の配分を見ても、この案が圧倒的に支持されたものとは言い難いものであったことは明白です。
フランス政府はこの決定を受けて、電気自動車購入に際しての補助金や税制優遇などの措置をとり、また低額所得者層向けに月額100ユーロの電気自動車リース制度(シトロエン、プジョー、ルノー、日産、フィアット、オペルなど)なるものを設けたりして、それなりに電気自動車は普及してきてはいます。しかし、この電気自動車は、なんといっても価格的には、圧倒的に高額であることが第一の障壁となっており、また外出先での充電の不安、そもそも外出先でなくとも自宅で充電できない、充電が容易ではないことなども、電気自動車普及の壁として存在しています。
政府があまりにも「電気自動車」を礼賛するので、ハイブリッド車の堅調な動きは見え辛くなっていたのですが、実はハイブリッド車は堅調に売れ続けるどころか、ここに来て、昨年の世界市場では30%の高成長を遂げ、フランスもその例外ではなかったことが、このトヨタのバランシエンヌ工場の成功ぶりにも表れています。
たとえ、2035年に欧州議会の決定どおり、ディーゼル車などと一括りにされてハイブリッド車の新車が販売停止になったとしても、それまでには、あと10年ほどあり、10年先でも、禁止されるのは、新車の販売であり、そもそも車を探す時には、中古車から探すのがあたりまえで、壊れたサイドミラーなどをガムテープで張り付けて乗っているようなケチなフランス人にとって、価格的には充分に納得できる価格で、しかもガソリンを大幅に節約できるハイブリッド車が堅調な人気を保ち続け、支持されるのは当然といえば、当然だったのです。
そうなってくると、ハイブリッド車の利点というものも再注目?され、あまりに「電気自動車こそが正義!」と電気自動車に傾きつつあった潮流の中で、決してハイブリッド車の性能が低下したわけでもなく、ハイブリッド車でも、温室効果ガス削減などに大きく貢献でき、しかも燃費抜群、さらに電気自動車よりもはるかに安価である点などが実は評価され続けていたことがあらためて見直される現状になっています。
フランスでも自動車産業は可能だ!
今回のトヨタ バランシエンヌ工場の500万台突破記念式典の高揚には、産業大臣までが出向いて、このトヨタのフランス工場の好景気を大絶賛!「現在の欧州の自動車産業の文脈における非常に刺激的なストーリー」(欧州の製造業のほとんどは、四半期、売上高の減少などの業績不振を続けており、多くのメーカーは従業員解雇の波が続いている)、「トヨタはフランスでも自動車産業が可能であることを示してくれた!」と述べています。
言われてみれば、ここのところ、産業大臣などの政府高官がが工場を訪問するのは、業績不振の工場が従業員を解雇するのに、組合側と対決してデモを行っていたりする場面によく見られ、大臣としては、このような祝福ムードの工場訪問は、喜ばしいことであるに違いありません。
とはいえ、政府の高官の立場としては、あまりにハイブリッド車だけを絶賛するわけにもいかないのか、この日本の方法論を駆使したコンパクトな工場での1日3シフト制の導入や要所要所でのロボット作業などの効率的な生産体制(日本式「方法論」・「根本原因を追究する厳格な方法論」)を「改善(KAIZEN)」という日本語の単語そのままを使って説明して絶賛しています。また同大臣は「トヨタと下請け企業の関係の質の高さ」についても称賛しています。
同工場は1日3シフト制を導入後、劇的に生産量が増加、また徹底的な無駄を排除する製造工程、3800ヶ所の溶接作業を行う600台のロボット導入、生産工程で生まれるスクラップの利用、独自のバンパーや部品工場を近隣に配置するなど、あらゆる作業の効率化の工夫をしています。
フランスは小型車の生産については、これまで比類ないノウハウを持っていたにもかかわらず、その生産拠点を国外に移してしまっているなか、トヨタだけがフランス国内で成功をおさめ続けている現実からは、実際の市場の観点からも目を背けてはいられない現実があります。一時は「脱炭素化」の潮流で一気に電気自動車に舵をとった多くの自動車メーカーも、ここに来て、フォルクスワーゲンはEV市場の変化を受けて、ドイツ国内の工場閉鎖を検討、メルセデスベンツも30年までの完全EV化を撤回、ゼネラルモーターズがミシガン工場のEV投資を2年間凍結、フォードモーターも大型SUVモデルのEVモデルを取りやめるなど、電気自動車へのブレーキがかかっています。
この世界の潮流を見ていると、電気自動車礼賛の声は明らかにトーンダウンし始めていることは明らかで、業界全体が電気自動車に傾くなか、一時は酷評さえされた、「電気自動車よりもハイブリッド技術を長らく擁護し続け、あくまでもハイブリッド車を諦めなかったトヨタの姿勢・方向性」は、正解であったと言わざるを得ないのかもしれません。「私たちの使命は常に適切なテクノロジーを適切なタイミングで提供すること」という言葉に、今さらですがこの現実とともに、納得させられる気持ちです。
多様性の時代にあって、自動車メーカーが「これにしろ!」と押し付けるのではなく、ユーザー側がエコカーを選ぶというトヨタの姿勢が、やはり、的を得ていた・・そして、その時代にあったユーザーの求める自動車を提供し続けていくトヨタは、つい先日、水素エンジンと同社のハイブリッド技術を兼ね備えた車両を発表しています。
フランスは、それでも、この日本の自動車メーカーの成功を讃えつつも、「日本のメーカーTOYOTAはフランス製車両を500万台も公道に走らせている!」という、あくまでもフランス主体の絶賛の仕方をしていることは、フランスらしいな・・と思うところではあります。
いずれにしても、海外にいて、日本の企業が讃えられることは、何よりもうれしいことです。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR