最新記事
日本経済

トランプ2.0で円安が進むなら、日本経済には「ショック療法」が必要だ

Japan's Shock Treatment

2024年12月14日(土)18時48分
浜田宏一(元内閣官房参与、エール大学名誉教授)
日本経済

日銀の植田総裁は「ショック療法」を決断できるのか Issei KatoーREUTERS

<トランプ再選で過度な円安が進み、インフレをもたらすなら日本経済には「ショック療法」つまり利上げが必要だーー。アベノミクスの生みの親である浜田宏一・元内閣参与が「イシ・トラ」時代の日米経済関係を読む>

今からちょうど8年前、2016年11月にドナルド・トランプの大統領当選の報が東京に伝えられた日、国連事務次長を務められた明石康氏が昼食に誘ってくれた。

明石氏は開口一番、「これからアメリカの白人の復讐が始まるのです」と言われたが、今回の米大統領選もまさにその再現だった。明石氏に招待されたのは,麻布にある日本の財閥系の、少なくともその時点では女性が正式会員になれないクラブで、このことは差別の問題が日本でも避けて通れないことを示唆していた。

差別の風習には、差別する側に有利なものが多い。そのような風習をそのまま保つことが有利なグループは、世の中に目立って票を集める能力のある候補者が現れると、その候補者によって差別の仕組みを守ろうとする。

24年の大統領候補者トランプは、証拠もないのに選挙の不正が行われたと称して米議会に暴徒が闖入するのを助けるという民主政治の基本を犯しながらも、選挙民に人気を失わなかった。彼は現職の大統領は訴追できないという合衆国憲法と、自分が任命した米最高裁メンバーに守られて2期目を務めることになる。

なぜ、民主主義の原則を信奉する者から見て、信じがたい事態が生じたのだろうか。一つの理由は、人はインフレ率を目標に行動するのではなく、昔の価格水準と今の物価水準を比べて暮らしへの影響を見ているからである。

トランプが新型コロナ禍を無視したり対応に遅れたのに比べ、ジョー・バイデン大統領はコロナに精力的に対応した。しかしトランプの金持ち優遇策にバイデンの弱者保護政策が加わった結果、トランプ時代に10ドルあれば十分な簡単な昼食が食べられたのに、バイデンになるとその2倍かかるといった状態が2023年後半に生じた。そこで「トランプの方が経済は上手だ」といった印象が生まれた。

コロナ禍で帰国できず、先日4年ぶりにアメリカから帰った私も、東京の物価が上がっているのに驚いた。日本の観光業の繁栄はよいが、建築労働者などの人手不足、留学生や研究者がアメリカ行きをあきらめることなどの円安の弊害はいろいろなところに見られる。

newsweekjp20241213075353-dd73d5c140e2fa79b65e034f8c9d34779d1f6f7a.png

慶応大学産業研究所の野村浩二教授作成


慶応大学産業研究所の野村浩二教授は日米の生産費を比較し、それを均等化する為替レートを算出している。それによれば、最近の推計値は1ドル94.8円であるという。日米の為替レートは、1ドル150円前後で変動しているが、日本で生産されたものは現在の価格より50%以上アメリカで高く売れることを示している。日本製品や観光業はバーゲンの状態であり、逆に日本の旅行客、留学生はドル高に苦しむ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米が関係改善望むなら応じる用意、次期政権の出方次第

ワールド

ガザで報道車両に空爆、イスラエルは戦闘員標的と説明

ワールド

台湾総統府、中国との有事想定した初の机上演習

ワールド

イスラエル右派閣僚がアルアクサモスク訪問、ガザ人質
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 2
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 3
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリスマストイが「誇り高く立っている」と話題
  • 4
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 5
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 6
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 7
    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …
  • 8
    ウクライナ特殊作戦による「ロシア軍幹部の暗殺」に…
  • 9
    中国経済に絶望するのはまだ早い
  • 10
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 7
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 8
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 9
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 10
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中