最新記事

LGBTQ

紅白歌合戦になぜレインボーフラッグ? NHKに聞いてみた

2020年1月24日(金)18時20分
大橋 希(本誌記者)

レインボーフラッグの意味が分からない視聴者も多かったのでは? Marc Bruxelle/iStock.

<紅組のトリを務めたMISIAのステージで、LGBTQを象徴するレインボーフラッグやドラァグクイーンたちを演出した意味は?>

70回目を迎えた昨年末のNHK紅白歌合戦――最後の最後で、おや? と思ったのは、「アイノカタチメドレー」で紅組のトリを務めたMISIAの背後にひるがえるレインボーフラッグ。レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(LGBT)の象徴とされる虹色の旗だ。

舞台ではドラァグクイーンたちがダンサーやコーラスを務め、ゲイナイトに出演経験のあるDJ EMMAや、19年に同性婚が認められた台湾のDJ Noodles(レズビアンを公表)も登場。ほかの出場歌手たちもステージ脇でレインボーフラッグを振っていた。

画期的だ! と胸が熱くなった。その一方で、紅組司会・綾瀬はるかの「年齢も性別も、国境さえも愛の力と音楽で越えていきたい。そんなMISIAさんの熱い思いが詰まったステージです」という紹介だけでは、「意味の分からない視聴者も多かったのでは」と感じた。

もう少し説明が必要だったのでは? というもやもや感を解消するため、紅白の制作統括を務めた加藤英明チーフプロデューサーに話を聞きに行った。

***


――紅白歌合戦では、それぞれの歌手の演出はどのように決めていくのか。

アーティストの1年を締めくくる歌唱シーンをどう演出していくかについては、NHKから積極的に提案することもあれば、出演者サイドからアイデアが出ることもある。本当に千差万別で、「全体的にこうです」とは言いにくい。

アーティストが表現したいもの、その年に歌いたい曲、僕らが歌ってほしい曲っていうのはそれぞれ違う。丁寧に話し合いながら進めていくというのが、正しい説明ですかね。

――11月中旬に出演歌手の発表があるが、それ以前から「内定」の形で交渉し、演出についても考え始めている?

オフィシャルには11月中旬の正式発表の直前に出演交渉していることになっているので、いつから何を議論しているのかは、ちょっと言いづらいんですが......まあ、基本的には歌手発表の後に、どういう演出にするかを議論しています。紅白って比較的短時間で一気に作る番組で、それまではスタッフもみんなレギュラーの番組を抱えている。紅白が近づいてくると一斉に参加して、担当のアーティストを決めて、僕が統括する形で進んでいく。

ありがたいことに、紅白は1年の締めくくりということでアーティストも気合が入っている。一緒に作っている感覚がすごくありますね。担当のディレクターがアーティストと日々やり取りし、最高のパフォーマンスを引き出すにはどうしたらいいか、衣装は何を着る、ステージの演出はどうすると議論しながらやっていく。必ずしも、NHKが「こうしてくれ」と言う通りになるわけではない。

曲についても「今年はこの曲で」と言われる方もいますし、NHKに任せますと言う方もいる。アーティストによってまったく違って、毎年もめる人もいれば、毎年お互いの思いが一致する人もいる。

――MISIAのステージの演出については?

実はですね、僕自身がプロデューサーとして、MISIAさんとはお付き合いが長いんです。2015年から毎週火曜日、FMで「MISIA星空のラジオ」という番組をずっとやっている。

そこでときどきゲストを迎えるなかで、LGBTQに関しては3年くらい前かな、「台湾LGBTプライド(LGBTパレード)」に彼女が参加した頃に、「プライドハウス東京」をやっている松中権さんや、「東京レインボープライド」の中心的人物である杉山文野さんをゲストに呼んだ。そこでは、台湾がいかに同性婚実現に向けてアジアでリードしているかや、プライドパレードが素晴らしかったという話をしてもらった。

ドラァグクイーンのhossyとマーガレットに来てもらって、彼らが考えるLGBTムーブメントみたいな話をしたこともある。節目節目で、MISIAのLGBTQへの思い、セクシャルマイノリティへの差別・偏見を少しでも減らす社会を目指したいっていうアーティストとしてのメッセージみたいなものを発信する番組を一緒に作ってきた。

ただ、紅白でああいうことをやりたいと言ってきたのはMISIAです。出演交渉を進めていくなかで、司会が綾瀬はるかさんなので、彼女が主演したヒットドラマ「義母と娘のブルース」の主題歌「アイノカタチ」を歌うこととともに、(オリンピック・パラリンピックのある)2020年には日本が世界にどうメッセージを伝えるかが大事というような話をした。そこで、多様性などについてMISIAが日頃発信しているものを紅白という場で表現してみようか、となったんです。

本当に本番の日ぎりぎりまで、何度もリハーサルをした。カット割りや照明1つとっても、MISIA側の思いも強かったし、僕らもそれに応えてより良いものにしなくちゃというのはすごくありましたね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

製薬マリンクロットとエンドー合併へ、破産法から脱却

ワールド

アメリカン航空機、デンバー着陸後にエンジンから出火

ワールド

欧州委、大規模汎欧州防衛プロジェクト呼びかけへ=白

ワールド

米政権、対ロ圧力を強化 エネルギー取引巡るライセン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 3
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 4
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 5
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 8
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 9
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎…
  • 10
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中