最新記事

ハンガリー

ハンガリーで民主主義の解体が始まる──オルバン首相圧勝で

2018年4月11日(水)19時20分
クリスティナ・マザ

「キリスト教国家」の救世主として総選挙に圧勝、再選を果たしたオルバン首相 Leonhard Foeger-REUTERS

<反移民、反自由主義を掲げて支持を集めたハンガリーのオルバン首相が、総選挙で再選された。今後4年間、民主主義の後退を防ぐことはほとんど不可能で、ジョージ・ソロスの自由な大学も国外に移転せざるをえないとみられる>

4月8日に行われたハンガリーの総選挙でビクトル・オルバンが勝利したことは、驚きではなかった。もう何週間も前から、オルバンは圧倒的な勝利に向かっているとみられていた。

4月9日午前の開票時点で、オルバン率いる右派政党フィデス・ハンガリー市民連盟が予想以上の圧勝を収めたことがわかった。

反自由主義への傾斜を強めるフィデスなど連立与党は、ハンガリー議会の3分の2超を占め、過去8年にわたって実施してきた改革を引き続き進めることができることになった。

今後4年間、オルバンと連立与党は、憲法を改正し、政敵を弾圧するだけの政治権力を持つ。専門家は、オルバンの台頭をもたらした民主主義の後退を防ぐことは、ほとんど不可能だと述べている。

「この勝利によってオルバンは、完全民主主義を反リベラル民主主義に転換し、さらにそれを『選挙による独裁』に転換するのに必要な権力を獲得した」と、ハーバード大学講師のヤッシャ・ムンクは本誌に語った。

「ハンガリーの野党勢力が、選挙でオルバンを倒す機会はほとんどない」と、ムンクは続ける。「オルバンは独立政党が候補を出すことをより難しくするために、憲法を改正することもできる。大学を支配することもできるし、議会を通じて最高裁を廃止することさえできる」

圧倒的に与党有利の選挙

欧州安全保障協力機構(OSCE)は、フィデスは国内における真の政治的競争を抑圧したと主張し、ハンガリーの今回の選挙を批判的した。

「4月8日の議会選挙では、国と与党が共闘する形になり、野党候補は対等な立場で戦うことができなかった」と、OSCEは指摘した。

「有権者は幅広い政治的選択肢を持っていたが、脅迫的で外国に対する偏見に満ちた表現や、メディアの偏向、選挙資金の不透明さなどによって、純粋な政治討論の場が限定され、十分な情報を得て選択をすることができなかった」

過去8年間、オルバンはハンガリーのメディアを支配し、批判的なジャーナリストを脅し、憲法裁判所の権限を制限し、チェック・アンド・バランス(抑制均衡)を損なったと非難されてきた。

再選をめざす選挙戦の間、オルバンは、反移民と反ユダヤの極右的表現を駆使し、ハンガリーを、イスラム教徒と外国資本の侵略に脅かされるキリスト教国家として描き出した。

オルバンの選挙活動の大半は、ハンガリー生まれのユダヤ人億万長者で米慈善家のジョージ・ソロスに対する攻撃に向けられた。

オルバンは絶え間なくソロスを攻撃し、難民に国境を開くことによってキリスト教国としてのハンガリーが破壊されると警告するポスターを国中に張り出した。

オルバンの勝利は、現在の恐るべき政治情勢の象徴であり、第2次大戦以来、ヨーロッパの指導者がユダヤ人を国家の敵として非難することで選挙に勝った初めてのケースだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最大の航空機事故、胴体着陸後に激突炎上 死者1

ワールド

米国に「最強硬対応戦略」、北朝鮮が決定 日米韓は核

ワールド

アングル:移民取り締まり強化は「好機」、トランプ氏

ビジネス

アングル:高い酒が売れない、欧米酒造メーカーのほろ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も助けず携帯で撮影した」事件がえぐり出すNYの恥部
  • 2
    「弾薬庫で火災と爆発」ロシア最大の軍事演習場を複数ドローンで攻撃...「大きな被害」示す映像も?
  • 3
    生活保護はホームレスを幸せにするか、それを望んでいるのか...福祉国家・日本の現実
  • 4
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 5
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 6
    スターバックスのレシートが示す現実...たった3年で…
  • 7
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 8
    流石にこれは「非常識」?...夜間フライト中に乗客が…
  • 9
    アメリカ生活での驚き12選...留学生のカルチャーショ…
  • 10
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 4
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 7
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 8
    ヨルダン皇太子一家の「グリーティングカード流出」…
  • 9
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
  • 10
    わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中