最新記事

米外交

アメリカはもう台湾を守れない

2010年2月2日(火)17時58分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

台湾問題は地域紛争の一つにすぎない

 台湾問題を煽るべきでないという問題もある。民主体制化にある台湾は無条件で支援されるべき存在であり、中国のすぐ沖合いに停泊する「空母」の役割を果たしてくれると考えるアメリカ人は多い。だが私は、米中関係において台湾問題が以前と同じほど重要な役割を果たすべきではないと思う。
 
 台湾は小さく、アメリカにとって真の意味での戦略的利益はほとんどない(中国が本気で併合しようとすれば阻止できないし、そうなったからといって対中戦争を始めるには値しない)。

 さらに、台湾への武器輸出政策は、よく考えれば問題がないとはいえない。中国がアメリカ沖に戦略的拠点を確保する狙いで、キューバに64億ドルの武器を輸出する事態を想像してみよう。アメリカはキューバ危機でまさにそうした事態を経験しており、猛烈に反発するのは目に見えている。

 外交には熟慮の末に少量の偽善が混じるものだが、中台問題はその何倍も重要な課題から目を背けさせる要因になりかねない。中台問題は、中国と台湾の間で解決されるべき地域問題の一つ。地域内のトラブル以上の意味をもたない数々の国境紛争と同じだ。

「アメリカにも限界がある」時代

 アメリカは世界中の民主国家をサポートすべきか。イエス。では、アメリカは民主国家を守るために戦争に乗り出すべきか。答えはノーだ。

 マイノリティーの人々や小国を意地悪な近隣諸国から守ろうとする国際社会の努力をサポートすべきか。イエス。では、アメリカはそうした国々すべて(とくにハリウッドスターや巨額の資金をもつロビー集団が背後にいる国)の最後の防波堤となるべきか。答えはノーだ。

 私たちは「アメリカにも限界がある」時代に足を踏み入れている。アメリカは自国の重要な戦略的利害に関わる地域や、関与することで国益にプラスになる国などごく一部の場合にのみ、積極的に関与できる。つまり、アメリカは外交政策の「大掃除」を行い、これ以上支援できない相手を見極める努力をすべきだ。厳しい判断を迫られることもあるだろうし、方針転換を公にしないほうがいいケースもあるだろう。

 だが、経済環境は芳しくなく、アメリカが昔のような収支計算では立ち行かないのは事実だ。アメリカはもはや、かつてのような国ではいられない。あちこちの紛争に首を突っ込みすぎると、最終的にはアメリカの安全保障が脅かされることになる。アメリカ国民はそのことを受け入れるべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、取り調べで沈黙を守る=捜査当局

ビジネス

午後3時のドルは157円前半へ下落、日銀総裁発言「

ビジネス

12月工作機械受注は前年比11.2%増、3カ月連続

ビジネス

デフレ脱却へ適切な政策運営期待、次回日銀会合を注視
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン」がSNSで大反響...ヘンリー王子の「大惨敗ぶり」が際立つ結果に
  • 4
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 5
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 6
    日鉄はUSスチール買収禁止に対して正々堂々、訴訟で…
  • 7
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 8
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローン…
  • 9
    トランスジェンダーを抹消か...トランプ政権、気候変…
  • 10
    LA史上最悪の山火事が招いた、ハリウッド映画のよう…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 7
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 8
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 9
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中