日本の技術で世界の干ばつ解決へ...ナガセヴィータの研究者に聞く「糖」の意外な活用法
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ナガセヴィータで農業分野の研究を率いる東山隆信さん。海外駐在の経験も長く、トレハロースの可能性に大きな期待を寄せている
<南米の農業大国で水不足が懸念されているが、そこで注目されるのが「バイオスティミュラント」。食品や医薬品に使われるトレハロースが農業分野で大きな可能性を示している>
世界各地で今、温暖化による干ばつが深刻化している。南米ではアマゾンの熱帯雨林が記録的な干ばつに見舞われ、2024年10月にはアマゾン川支流の水位が観測史上最低となって「砂漠化」しているとも報じられた。
干ばつは地域の暮らしや経済に影を落とし、特に農業生産への影響は甚大だ。南米で言えばブラジルやアルゼンチンは穀物をはじめとした農業大国であり、水不足の影響に強い危惧を抱いている。多くの食糧を輸入に頼る日本にとっても他人事ではない問題だ。
そうした世界の農業課題に挑んでいる日本企業がある。岡山県岡山市に本社を構える「ナガセヴィータ」。1883年に創業し、自然由来の微生物や酵素の力を生かしたものづくりを行ってきた老舗の素材メーカーだ。
植物の免疫力を高める効果
同社の「看板素材」が「トレハロース」である。キノコや海藻などにも含まれる自然界に存在する糖質で、でんぷんの老化抑制やタンパク質の安定化など多様な機能を備える。
かつては希少な高級素材だったが、同社が1994年に世界初の量産化に成功したことで、現在では食品や医薬品、化粧品を中心に国内外で活用されている。日頃、私たちが口にしている弁当や菓子の食品表示を見れば、トレハロースの文字を簡単に見つけられるだろう。
そのトレハロースが近年、農業分野で大きな可能性を示しているというのだ。一体どのように使われるのだろうか。同社のバイオアグリ・サイエンスユニットリーダー、東山隆信さんは、「当社のトレハロースが農作物に対して『ワクチン』のように機能することが分かってきました」と切り出す。
「農作物は当然、自ら移動できずずっと同じ場所にいるため、常にさまざまなストレスにさらされています。高温や低温、また気候変動による干ばつや塩害だったり、病原菌や害虫といった生物的ストレスもあります。
植物にはもともと抵抗性が備わっているのですが、実際に危機的状況に直面しないと発揮されず、それだと手遅れのケースが多い。そこで、トレハロースが活躍します。トレハロースを与えると植物本来の免疫力をあらかじめ高めることができ、ストレスに強く病気になりにくくなる効果が認められました」
23年、同社はブラジルのサンパウロ州立大学と共同研究を実施。インゲン豆を対象に、生育期の約2週間に苗への散水量を制限して、その間2回、トレハロースを葉面に散布した。
すると、十分に散水した苗と比較しても生育や収量は落ちないばかりか、トレハロースの1回の散布量は1ヘクタール当たりわずか50グラムが最も効果的であることが分かったのだ。東山さんは「非常に少量で、干ばつでのストレス低減や収穫量の安定化に貢献できます」と説明する。
植物の生育を促しストレスを緩和する物質や微生物は「バイオスティミュラント(BS)」と呼ばれる。トレハロースのような自然由来のBSは、環境負荷を抑えた新しい農業資材として近年注目され、バイオ農薬・肥料とともに広まってきている。
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