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チベットを担う若きリーダー
チベット仏教の僧院も拝金主義の影響を受けないわけではない。カルマパは今年のモンラムの際、インド北東部のガントクにある僧院の関係者を汚職で解雇した。本誌記者がカルマパのインタビューを始める直前まで、その後任者が緊張した面持ちでカルマパの話を聞いていた。
カルマパは断食や長時間の瞑想が行われる僧院で暮らしている。彼自身は一日の最後につま先をマッサージすること以外、快適な生活とは無縁でいる。本誌のインタビュー中にカルマパは「少し疲れた」と、ためらいがちに英語でもらした。
訪問者はたいてい白いスカーフを高僧にささげる。カルマパはいたずらっ子のように、高級なシルクのスカーフが積まれたところから1枚取って記者に放った。ジャーナリストの質問のほとんどは「簡単すぎる」と、カルマパは通訳を介して言う。
ダライ・ラマの後継指導者になれるかと尋ねると、自分は多くの候補の一人にすぎないと、カルマパは答えた。「ダライ・ラマは太陽のようだ。どれだけ星があっても太陽のようには輝かない」。カルマパはダライ・ラマと同様、現代の地政学についての質問には、慈悲や寛大さに関する格言などをちりばめながらうまく答える。カルマパは地球温暖化や過剰消費の問題を解決する「妙案」についても語った。
カルマパは昨年3月にチベット自治区ラサで起きた反中国の暴動も含め、暴力を非難している。ただ、中国政府の抑圧下での暮らしを余儀なくされているチベット人や亡命チベット人の「いらだちや閉塞感」は理解できると言う。「どんな生き物でも、何度も繰り返し窮地に追い詰められたと感じると、もう怒りを爆発させるしかないと思うものだ」と、カルマパは本誌に語った。
爆発しそうな機運は高まっていると彼は言う。中国政府がチベット人の正当な要求をはぐらかそうと時間かせぎを続けるうちに、大きな混乱が発生しそうな気配が日に日に高まっている。「中国共産党は、神聖な力をもつダライ・ラマの存在が現在大きな役割を果たしていることを理解すべきだ」とカルマパは言う。「ダライ・ラマには怒りが爆発しないよう封じる大きな抑止力がある。彼のような人物がいなくなったら、大混乱が起きかねない」
カルマパ17世にもダライ・ラマ14世と同様な役割を果たせるのではないか。「私には目標がないし、絶大な影響力をもつという野心もない」とカルマパは語った。「だが、私に変化を生む力が授かれば、その力を発揮する」
中国政府との接触はない?
カルマパがダライ・ラマの後継者になるのは非常にむずかしい。彼はすでに別の人物の転生者なので、ダライ・ラマの生まれ変わりにはなれない。さらにカルマパは、ダライ・ラマのゲルク派のライバルにあたるカギュ派の指導者だ。カルマパを摂政に指名することは、ゲルク派のリーダーを別宗派から連れてくることにほかならない。これは米国聖公会の代表がバチカン市国を20年間統括するようなものだ。
カルマパを後継者にすることにさまざまな問題があるとしても、メリットはある。ダライ・ラマがカルマパを摂政に指名すれば、チベット人を分裂させるのではなく団結に向かわせるだろう。「宗派間の論争は二次的な問題になりつつある」とハーバード大学のロブサンは言う。ロブサンのみるところ、カルマパを摂政にすることは「チベットの政治運動の現実」に即している。
「彼は若い」と、世界に3万人の会員をもつ自由チベット学生組織のツェワン・ラドンは言う。「今はその話題でもちきりだ。カルマパは宗教だけでなく、チベット社会の精神的・政治的な面でも影響力を及ぼせる人物だ。チベット人を支配しようとする中国に対抗心を燃やす、新しい世代の代表になれる」
2度目のインタビューの際に中国政府との接触はあるかと聞くと、カルマパは躊躇して話をそらした。代わりに、中国がチベットに取るべき政策は、大国としての度量を示して、ダライ・ラマが求めるチベット自治の要求をのむことだと語った。カルマパは退席しようと立ち上がったが、記者が再度、中国との接触について答えてほしいと促すと足を止めた。「接触はない。(中国側の)誰とも政治的な接触はない」と語ってから、本当のことを明かした。
中国はインド政府を通して、カルマパはいかなる政治活動もすべきではないという意向を伝えてきた。ただし、彼が純粋な宗教指導者であり続けるなら、中国はカルマパとの関係を絶たないという。「それはまったく問題ない。政治に関しては素人だから」とカルマパは笑顔で言う。
真意はわからないが、笑顔は正反対のことを意味していたのかもしれない。
[2009年3月 4日号掲載]