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日本の安倍政権と同様に、トランプを支えるのは生活に余裕がある「保守浮動票」
ニューヨークのトランプの大規模集会に参加した多くの人がおそらく中西部・南部の富裕層 Jen Golbeck/SOPA images/REUTERS
<左派を叩くことには興味があるが、生活や雇用には切迫感を持っていない>
10月27日に行われた日本の衆議院選挙は、低投票率でありながら自民党が大敗するという異例な結果となりました。昭和から平成にかけて、日本の選挙では大量の浮動票が結果を左右すると言われており、低投票率、つまり浮動票の棄権が多くなると自民党が勝ってきた経緯があります。1993年の細川政権発足、2009年の鳩山政権発足となった「政権選択」は、浮動票が投票所に押し寄せたからと説明されています。
今回の結果が証明したのは、日本の有権者の中に「保守浮動票」というグループが生まれているということです。漠然とではありますが、左派的なイデオロギーには距離感を持つ一方で、移民が増えたり夫婦別姓や女系天皇が実現すると「日本が変わってしまう」として不安を持ったりする層です。その一方で、生活面では都市の賃金労働者であったり、自営であったり、ある程度の安定がある、そんな層です。
今から考えると、長く続いた安倍政権がこのようなグループを育てたのだと考えられます。円安によって空洞化を進める多国籍企業が海外で稼ぐ利益が膨張し、国内の株価を押し上げ、多国籍企業の賃金をアップさせる一方で、国内の改革には積極的ではない、この不思議なアベノミクスが長く続いたのもこのためです。空洞化のメリットを享受している一方で、日本国内は「変わって欲しくない」という、ある種の「ズルい」政策パッケージを好む人々と言っても良いでしょう。
その保守浮動票が一気に棄権に回った、これが今回の選挙結果の説明として一番的確なように思われます。少し前までは岩盤保守層と言われていたグループは、実は岩盤ではなく浮動票で、左派政党に浮気はしなくても、棄権はする層だったのです。どうして棄権に回る余裕があるのかというと、比較的余裕のある年金や資産があって引退しているか、多国籍企業など国外の需要に関与し、経済的に余裕があるからだと思います。デフレ物価安はむしろ歓迎、実質の購買力についてもこの間の経済の変動を受けても許容範囲という「持てる側」のグループということです。
自分の会社はどんどん海外生産を拡大して国内のGDP寄与は縮小しているが、株価も業績もよく、給与もかなり上がっている、あるいは自営業でインバウンドの巨大な恩恵があるなどというのが具体的なイメージです。また、彼らの多くは知的レベルは高くても、知識人・読書人といったタイプではなく、政治的にも本籍はノンポリです。
安倍政権を支持した有権者層とトランプ支持層の類似点
そんな彼らは、何かにつけて正論を吐いて論破をしたがる石破氏を好まない一方で、カネの問題を起こした安倍派議員には意外と冷淡であり、日本保守党を勝たせるほど熱狂的ではないという中で、棄権したのでしょう。
日米では政治風土も経済の構造も大きな違いがあります。ですが、この保守浮動票の存在という点では、安倍氏の作り上げた日本の票と、ドナルド・トランプ氏の積み上げてきたアメリカの票にはかなりの類似が見られます。
トランプ氏の政策ですが、その多くはアメリカの直接の国益を損なうものが多いわけです。輸入品に多額の関税をかければ、物価は上昇して消費者は困り、小売店は苦しみます。移民を追放すれば、外食・サービスなどの労働力が一気に不足します。製造業を取り戻すといっても、そもそもクリーンルームでスマホを組み立てるロボットの管理をアメリカ人にさせたら、人件費でコスト構造が変わってしまいます。要するに全てがファンタジーであり、同時に、こうしたアンチ経済的な政策を歓迎しているのは、仮に実現しても「痛み」を感じない財力のある人々です。
どうして左派を叩くのが面白いのか、民主党の政治家を収監せよなどと暴言を吐くのが面白いのかというと、余裕があるからです。自分が生活苦や雇用危機に直面していたら、そんな「憎悪というエンタメ」に身を委ねている余裕はないはずです。
10月27日の日曜日にはドナルド・トランプ氏はニューヨークの「MSG(マジソン・スクエア・ガーデン)」で大きな政治集会を開催して話題になりました。前座に出てきたコメディアンや評論家が「プエルトリコをゴミの浮島」と言ったとか、黒人男性を差別する言葉を連発したと話題になっています
その参加者の多くはニューヨーク市民でもないし、その近郊住民でもないと思います。市内にはトランプ派は少ないし、州北部などの住民にはマンハッタンで遊ぶような経済的余裕はありません。ですから、主な参加者は中西部や南部の富裕層だと思います。彼らはニューヨーク観光のついでにMSGでの集会に来ているのです。
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