コラム

コロナとさえ戦わない絶望の国ニッポン

2021年05月03日(月)07時41分

これが人々を愚かにさせる。唾液の飛まつだけだから、しゃべらなければ移らない。スーパーのレジで並んでいると、裕福そうな初老の女性に、いきなり振り向かれて、ソーシャルディスタンスと叫ばれ、私が70センチに接近していることを殺人未遂であるかのように非難する。貴方の叫びによる飛まつが一番危ないのだが、と思い、マスク越しであっても飛まつが一切でないように、黙って肩をすくめると、鬼のような形相でどこかへ行ってしまった。

しかし、最大の嘘は、日本の法体系では、強制力を持った措置が取れない、と政治家も有識者とやらも、知ったような顔でそれを大前提として議論をしていること。それは嘘だ。

ロックダウンも可能だった

憲法、基本的人権において、欧米と日本の法的な制限の差はない。いわゆる欧州大陸法と英米法(コモンロー)とで、法律の書き方、裁判制度などは異なるが、基本的人権の制限に関する差はない。実際、フランスでもドイツでもイギリスと同じように行動は制限され、外出は禁止されている。

単に、日本においては、特別措置法で、その規定がない、と言うことに過ぎない。なければ、作ればよい。特措法改正をしたときに、もっといろいろできるようにすればよかっただけだ。それは、医師会や世論が怖くて、できない、面倒だからしない、それだけのことだ。

1年間、国会でも戦わず、医師会とも戦わず、世論とも戦わず、政治も政府も何もしてこなかった。それを誰も責めなかった。むしろ、行動制限には補償がセットで必要だと、訳知り顔で政府を攻撃する。そんなことはない。社会秩序、社会全体の保健衛生上の危機がある場合には、一般的な規制をすることは憲法違反にならない。個別の措置は、憲法違反になる可能性があるが、それは裁判をやって判断するだけのことだ。

百貨店だけに休業を命令するのは明らかな憲法違反だが、特定の地域の人々全員に外出を禁止するのは憲法違反でない。小売店すべてに休業命令を出すのも違反でない。飲食店すべて休業命令を出すのは、違反でないと思われるが、飲食店の側で争う余地はある。

しかし、それは議論しなければ結論は出ない。裁判所であれ、国会であれ、メディアであれ、どこでも議論を戦わせずに、戦いから逃げてきた1年間。政治もわれわれも。それが、現在の結果をもたらしている。

そして、この戦いから逃げる姿勢は現在も継続している。太平洋戦争も同じだった、ともいえるだろう。

つまり、日本は絶望的で、望みがないのではないか、と思ってしまうのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 7
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story