アングル:マスク氏の利益に直結か、トランプ氏の「小さな政府」
米大統領選の共和党候補トランプ前大統領が9月5日、返り咲きを果たした場合に政府の効率化を進める委員会を設立し、実業家イーロン・マスク氏(写真)をトップに起用する方針を表明した。パリで2023年6月撮影(2024年 ロイター/Gonzalo Fuentes)
Sheila Dang Akash Sriram Joey Roulette Nora Eckert
[6日 ロイター] - 米大統領選の共和党候補トランプ前大統領が5日、返り咲きを果たした場合に政府の効率化を進める委員会を設立し、実業家イーロン・マスク氏をトップに起用する方針を表明した。
トランプ氏の考えでは、不正や不適切な支払いの排除を手始めに「連邦政府全体」を対象とする「劇的な改革」を提言する役割がマスク氏に期待される。
この委員会を率いるマスク氏にとって、共和党がしばしば提唱する政府のスリム化に向けた計画を策定する機会を与えられるわけだが、それだけでなく同氏は自身の仕事や資産に直結するルールの策定が可能になってもおかしくない。電気自動車(EV)大手テスラや宇宙企業スペースX、SNSのX(旧ツイッター)、人工知能(AI)を手がけるxAIといった同氏が経営ないし所有する企業が競争を繰り広げているさまざまな産業分野で、自らの利益にかなうようにルールを修正できるかもしれないのだ。
マスク氏は8月にXで行ったトランプ氏との公開対談で、政府の効率化を目指す委員会の設置を繰り返し提案するとともに、歳出規模を妥当な水準まで圧縮すべきだと主張し、積極的に手助けするつもりだと発言。トランプ氏は、マスク氏が雇用に「最も大なたを振るってきた」人物との見方を示した。
ヒューストン大学法科大学院のニコラス・グッゲンバーガー助教授によると、大統領肝入りの委員会は過去にも幾つか立ち上げられており、バイデン大統領も連邦最高裁の改革を検討する委員会を創設した。
しかしマスク氏の場合、数十億ドル規模という膨大な政府との利害関係がある点で、様相は違ってくる。
グッゲンバーガー氏は「マスク氏はEVや人工衛星を販売する大企業やSNSのプラットフォームを所有している。これら全ての分野で、(委員会の)提言は同氏が強い経済的利益を持つという事実に毒されたものになると想像ができる」と指摘した。
トランプ氏はまだ委員会の詳細は明らかにしていないが、政府の財政パフォーマンスを監査し、改革を提言する組織を描いている。
しかし元政府監査院幹部のクリスティナ・チャプレーン氏は「これまでにも非常に多くの監査や効率化のための提言はなされてきた」と語り、法令や規則の改正はすんなりとはいかないとくぎを刺す。
チャプレーン氏は、企業経営者は新たな視点を持ち込めるとしても、政府活動やそれに影響を及ぼす法令・規制の現実とぶつかることも少なくないと付け加えた。
マスク氏は何年も前から、政府運営が非効率だと見なし、自身が率いる企業が厳格な規制に縛られていると不満をあわらにしてきた。スペースXは衛星打ち上げや新技術の採用ごとに承認が必要だし、自動車規制当局はテスラの運転支援技術の安全性に目を光らせ、スタートアップ企業ニューラリンクの脳インプラント事業の大半も当局のお墨付きを得なければならないからだ。
市場では、マスク氏が米政府に影響力を行使するのを歓迎する声も聞かれる。
トリプルDトレーディングのアナリスト、デニス・ディック氏は、マスク氏が旧ツイッターを買収した後で大規模な雇用削減に動いたことに触れて、政府歳出もばっさり切ってくれると期待する。
一方、宇宙開発などでマスク氏が求める効率性が発揮されれば、ライバル企業にとって受難になりかねないと複数の専門家は懸念する。例えば政府がロケットの契約企業を複数存続させているのは無駄だとされる恐れがあるためだ。
人工衛星業界アナリストのティム・ファラー氏は「マスク氏が推進する政策案やその言動、これまでの政府との対決姿勢ゆえに、同氏に対して不安を覚える人は多い」と述べた。
投資家の間からは、マスク氏の仕事量が多過ぎるのではないかとの疑問も出ている。オートフォーキャスト・ソリューションズのサム・フィオラニ副社長は、政府の効率化に従事しながら、EVや宇宙開発、ボーリング、SNSの企業を運営しようとしており、いずれの方面でも存在感が薄れてしまうと警告し、何かを手放すべきだと強調した。
適切な財政運営がなされているかを監視する団体「シチズンズ・アゲンスト・ガバメント・ウエイスト」のトム・シャッツ氏は、政府効率化の委員会により多くの企業経営者らを配して責任を分散化するのが望ましいとみている。
マスク氏以外にも何人かの最高経営責任者(CEO)や非政府部門の人物を呼び込み、政府の活動を点検するのが有益だという。
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