コラム

不可能と思われた「DX」にワシントンポスト紙が成功した理由

2020年10月23日(金)13時55分

アマゾンへの身売りを報じるワシントンポスト(2013年8月6日) Gary Cameron-REUTERS

<赤字を垂れ流すしかない名門紙が最後に頼ったのはアマゾンのジェフ・ベゾス。ベゾスが金と技術と夢をもたらした>

エクサウィザーズ AI新聞から転載

米Amazon.comのCEOジェフ・ベゾス氏が2013年に、ワシントンポスト紙を買収した。現場記者時代はインターネットを取材テーマにし、その後は時事通信社社長室でDXに取り組んでいた僕にとって、このニュースはあまりに衝撃的だった。これまでの個人的な経験から、新聞というアナログの象徴のような産業に身を置く会社が、デジタルトランスフォーメーション(DX)に成功することなどほぼ不可能だと思っていたからだ。なぜベゾス氏が凋落を続ける新聞業界に投資しようというのか。まったく理解できなかった。

CNNの報道によると、買収を持ちかけたのはワシントンポスト側だったという。

ワシントンポストは1877年創刊の伝統ある日刊紙で、発行部数25万部。首都ワシントン最大の新聞であり、政治報道に重点を置いたクオリティペーパーである。

Tony Saldanha著「Whe Digital Transformation fail?」によると、2012年のワシントンポスト紙の売り上げは前年比7%減の5億8100万ドル、赤字は前年の2100万ドルから5400万ドルに膨れ上がっていた。紙の広告収入は同14%減、発行部数も同2%減と、下降線をたどっていた。

「21世紀の新聞業界のあるべき姿が見えない」。悩み抜いた同紙オーナーのドナルド・グラハム氏は、西海岸の大手テック企業のCEOに片っ端から相談を持ちかけたという。その中で「ベゾス氏は地に足のついた有数の経営者だ」と惚れ込み、買収を持ちかけた。グラハム氏によると、ベゾス氏は悩んだようだが、最終的に合意してくれたという。

その後ワシントンポストは、ベゾス氏の手腕で見事なまでの復活劇を見せた。

新聞のDXには絶望していた

2018年8月のCNNの報道によると、同紙は買収4年後の2016年には黒字転換を達成。2017年、2018年も黒字続きだという。2017年には同紙のサイトの読者が100万人を超え、2018年の時点で150万人を突破。オンライン読者数でニューヨークタイムズを抜いたという。また買収後しばらくはレイオフが続いたが、2017年には採用を再開し、記者60人を採用した。技術職も250人以上を採用、編集局の従業員数は900人に上ったという。

新聞のDXに絶望していた僕からすると、ありえない成功だ。なぜここまで成功できたのだろうか。

前回の記事「なぜDXは失敗するのか②米国がメートル法への移行に失敗した理由」で、DXにはMTP、空気、スキン、パイプラインの4つの要素が不可欠だと書いた。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story