コラム

ウイグル、チベット、内モンゴル......中国による民族弾圧の原点は毛沢東にあり

2021年11月30日(火)17時30分

第2に、日本の敗戦はモンゴル人民共和国と統一合併運動を促進した。内モンゴル人を解放したのはモンゴル人民共和国とソ連の連合軍だった。

対日参戦を「民族解放の戦争」と位置付けるモンゴル人民共和国も、内モンゴルの同胞との統一国家建国を理念としていた。大国同士の裏取引により統一は実現できなかったが、中国を選ぼうとしなかったモンゴル人は中国当局の恨みを買っていた。

1960年代に入り中ソ対立が激しくなるにつれ、「対日追随」と「モンゴル人民共和国との統一合併運動」という2つの「前科」が問題視された。

ソ連軍が進攻すればモンゴル人は中国から離反するとみた中国政府は事前粛清を決意し、それが文革時のジェノサイドに発展した。

大虐殺の後遺症は多々ある。モンゴル人は日本統治時代に誕生したエリート層を完全に失った。それ以降、中国政府に対して組織的に抵抗する力は削がれ、「内モンゴルは民族問題が存在しない、模範自治区だ」と謳歌されるようになった。

ジェノサイドこそ最も有効な異民族統治方法だと、中国政府は暴力の味を占めた。実際、文革以降は新疆ウイグル自治区とチベット自治区でも強行一辺倒の支配手段が移入された。

100万人ものウイグル人が強制収容施設に閉じ込められている現実と、昨年夏から続くモンゴル語教育の廃止政策も、文革期のモンゴル人ジェノサイドで得た「成功体験」の活用にほかならない。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ政権による貿易戦争、関係業界の打

ビジネス

中国の銀行が消費者融資金利引き上げ、不良債権増加懸

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、3月速報2.2%に低下 サービ

ビジネス

英製造業PMI、3月は23年10月以来の低水準 新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story