「自宅からわずか３０キロの村に外国人観光客が押し寄せるラベンダーの畑がある」という話を聞いたのは去年のこと。しかし地元の人が「人生で一番最悪な夏」と言っていたほど暑かった去年の夏は、燦々と照りつける太陽のもとに広がるラベンダー畑に足を運ぶ気分になれず訪問を断念しました。今年も去年に引き続き「記録的な暑さ」だと報道では言われていますが、体感的に去年と比べれば全然マシ。ということで念願だったラベンダー畑をついに訪れてみることにしました。

インスタ映えの村　ブリウエガ

有名なラベンダー畑があるブリウエガ(Brihuega)は、スペイン グアダラハラ県に位置する人口２５００人の小さな村。首都マドリードから車で１時間ほどで訪れることができるというアクセスの良さから、ラベンダーの見頃である７月には毎年１０万人もの観光客が世界中から押し寄せます。この村で栽培されているラベンダー畑の広さは約２５００ヘクタール。栽培されているラベンダーは、観光客を寄せ付けるだけでなくラベンダー蜂蜜や石鹸など村の多くの産業を生み出しています。特にリラックス効果があるとして日本でも人気のラベンダー精油は、世界で生産されている１０％をここブリウエガ産が占めているのだとか。

ブリウエガがスペインのバケーション観光地として知られるようになったのはインスタグラムが普及し始めた８〜１０年前のこと。紫色に染まった畑をバックに写真を撮りたいとたくさんの観光客がこの村に訪れるようになりました。私が訪問したのは７月末。満開の時期も過ぎているし、平日でなおかつ一番暑い夕方の時間帯だったのでさすがにそんなに人はいないだろうと思っていましたが、お洒落に着飾った多くの観光客たちがカメラを片手に畑の中を行ったり来たりしていました。耳を傾けてみると聞こえてくるのは英語や中国語、フランス語など外国の言語ばかり。そして皆、白色のドレスを身に纏っています。ラベンダーの紫とドレスの白がコントラストになって綺麗だということで、白の洋服はブリウエガに訪れる際の暗黙のドレスコードになっているようでした。

ラベンダー栽培の始まり

今やスペインのプロヴァンスと呼ばれるほど有名になったブリウエガですが、この村がラベンダーの栽培を本格的に始めたのはわずか３０年ほど前のことでした。内戦後まではスペインで最も大切な王立布工場があったことから経済的にも豊かな村だったブリウエガ。しかし時が経つにつれて経済状況は悪くなり、たくさんの住民がより良い生活を求めて村を後にしたそうです。残った村人たちは小麦などを植えてなんとか生計を立てていましたが、６０年前のある日フランス旅行から帰ってきた一人の村人がこの村の運命を変えることになります。

その村人の名前はアルバロ・マジョラル。１９６３年の夏にフランスのプロヴァンスに住む姉妹を訪れたアルバロは、プロヴァンスに広がるラベンダー畑の景色と香りに魅了され、この光景を自分の村で再現したいと考えました。持ってきたスーツケースに苗木を３０本詰め込み、ブリウエガに持ち帰って畑に植えたのがこの村のラベンダー産業の始まりです。当初は食料でもある小麦からラベンダーに転作することに抵抗がある農家も多かったようですが、ブリウエガの土壌や気候はラベンダー栽培に適しており、さらに小麦よりも収益が見込めるということで徐々にブリウエガの畑はラベンダーに置き換わっていったと言います。

「ブリウエガのラベンダー畑は観光地なだけではありません。ブリウエガは新しい物を作り出し、革新し、生活していけるところなのです。」ルイス・ビエホ村長は地元メディアが行ったインタビューでこう語りました。田舎の過疎化が深刻な問題となっているスペイン。多くの人々は仕事を求めて都心に移住して行きますが、ブリウエガの村人たちはラベンダーを使って工芸品や観光業などで様々な収入源を生み出せるのです。

参考：Alvaro Mayoral, el hombre que trajo a Guadalajara la lavanda de la Provenza

紫色に染まる村

この時期ブリウエガを華やかに彩るのはラベンダー畑だけではありません。村の中心地もインスタ映えのスポットとして観光客を楽しませています。車から降りると早速ふわっとラベンダーの香りが広がるブリウエガの中心地。入り口の門をくぐると道の両サイドに村人たちが開く出店がずらっと立ち並びます。売っているものはラベンダーを使ったものから村の工芸品など様々。多くの観光客が足を止めお土産を物色していました。

筆者撮影

筆者撮影

フラッと立ち寄ったお店でラベンダーソフトクリームを購入してみました。ラベンダー蜂蜜をさらに上からかけてもらい、街を散策しながらいただきます。バニラの甘さの後に鼻からふわっとラベンダーの香りが抜けていくような、とてもお洒落な味がするソフトクリームでした。

筆者撮影

出店や風景を楽しみながらぐるっと村を回ると大体２時間くらい。王立布工場の跡地や１０世紀頃に掘られたアラブ洞窟などじっくり楽しんでも半日ほどでブリウエガを堪能することができます。お昼ごろに訪れて村を散策し、夕焼けに照らされるラベンダー畑を眺めるというのがモデルコースのようですよ。まだ日本人観光客にはあまり知られていないスペインの観光スポット、ブリウエガ。来年の夏にスペイン マドリードを訪れる予定のある方は、少し足を伸ばしてラベンダー尽くしのブリウエガを堪能してみてはいかがでしょうか。