日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
メデジン初の日本文化センター: ひとりのコロンビア人の夢が叶った日
遠く離れた日本とコロンビア。お互いがお互いをよく知らないこの2つの国をもっと近づけたい、そんな想いを持ったコロンビア人と日本人が手を取り合い、今年2月に日本文化センター「春のひなた」がオープンしました。
春のひなたが作られたのはコロンビア第2の都市メデジン。首都ボゴタには日本大使館との協定によって有名私立大学の構内に建てられた日本センターがありますが、メデジンにはこのようなコロンビア人と日本人が交流を持てるような場所は今までありませんでした。
一人のコロンビア人の夢から始まった
「3年くらい前から考えるようになりました。メデジンの街には日本文化を愛する人がたくさんいるのにそういった人々をつないでくれる場所がなかったのです。」
そう語るのはメデジンのEAFIT大学の日本語コースで日本語を学んでいたニコラス・モレノさん。先生でもあり親しい友人でもある羽田野香里先生に夢を語り、いつか一緒にやりたいねと話していたのです。
「香里先生を家に送る車の中で2人で笑い話をした事を今でも覚えています。日本式の大きな家を作っちゃう?悪くないよねって。」
しかしそれは5、6年後に実現できたらいいね、という夢に過ぎませんでした。和室を作ったり、図書館を作ったり、EAFIT大学にはない子供たちだけのクラスも作ろうと2人でアイディアを出し合い、夢を膨らませていたのです。
しかしある日、その夢を実現へと導く予想外のニュースが飛び込んできました。
「いつか」は突然訪れた
パンデミックの影響を受けてEAFIT大学では外国語コースの運営の見直しが行われました。その結果2021年12月で日本語コースが封鎖することが決定したのです。この日本語コースは歴史も長く、アニメブームの影響を受け人気が高かったコースだっただけに、この閉鎖は誰もが予測できないものでした。
突然のニュースに驚いたのも束の間、今までEAFIT大学に通っていた学生の日本語を学ぶ場所がなくなってはいけないと、ニコラスさんと香里先生は「いつかの夢」だった日本センターの設立に急いで取り掛かります。2人ではじめたプロジェクトでしたが、あれよあれよと仲間が集まり運営メンバーは5人に。全くゼロの状態から物件探し、組織の振り分け、アナウンスなどを急ピッチで行い、なんと大学の日本語コース閉鎖からたった2ヶ月で日本文化センター「春のひなた」をオープンさせることができたのです。
春のひなたオープン!
春のひなたのオープン記念イベントでは、Chakai Teaのビクトルさんが見事な茶道の作法を披露しました。このイベントには多くの人が集まり、部屋から人が溢れてしまったほど。メデジンという街には日本文化に興味があるコロンビア人がたくさんいるということが、このイベントを通して証明されました。
「春のひなた」はEAFIT大学の日本語コースを継続するための場所だけでなく、このように日本に興味のあるコロンビア人が気軽に集まり'好き'を共有する場所にもなっているのです。
「オープンする前は正直怖いという気持ちがありました。コロンビアで新たに企業するということは簡単ではないですし、それが文化についてとなると更に難しいという事を知っていたからです。しかしオープン記念イベントで想像を上回るたくさんの人が来てくれて、メデジンの人が本当に日本文化に興味があるんだということが分かってほっとしましたし、人が集まるのも時間の問題だなと感じました。」
オープンした後のニコラスさんの表情にはもう不安の色は一切ありませんでした。
ただの日本語学校では終わらせない
児童養護施設での勤務経験がある香里先生は、今まで日本語教師として働く傍らコロンビアの子供達の支援のため、積極的に様々な活動を行ってきました。コロンビアは所得格差が特に大きい国の一つとも言われており、富裕層をのぞいた子供たちはコロンビア以外の文化に触れる機会がほとんどありません。狭い世界で生活している子供たちが日本の言語・文化を通して異文化や新しい価値観を身につけることで、視野を広げ世界に目を向けて欲しい。「春のひなた」はそんな想いを込めて今後様々なイベントを行っていく予定です。
更に「春のひなた」はコロンビア人が日本を知るための場だけではなく、コロンビア人との交流を通して日本人がコロンビアをより深く知ることができるような場にもしたいと運営メンバーは考えています。
クラファン挑戦中
この「春のひなた」は完全に民間の文化センター。組織や企業などの支援は全く受けておらず、スポンサーもいません。そんな中「春のひなた」をより充実したセンターにするため、香里先生が現在クラウドファンディングに挑戦しています。
ひとりのコロンビア人の夢から始まったこの日本文化センター。日本とコロンビアという遠い二国を今後ぐっと近づけてくれるであろうこのプロジェクトを、ぜひ応援していただけたら幸いです。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon