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感染症対策

欧州はワクチンパスポートなしではカフェにも入れず スイスも16歳以上に提示義務化

2021年09月22日(水)19時12分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

連邦保健局(BAG)のグラフを見ると、薄い緑色の線で示している1回接種(Erste Impfdosis)の人が右上がりになっていることがわかる。スイス放送協会は、薬局やワクチン接種センターに1回目接種希望者が詰めかけている様子を報じている。

newsweek202109221903.jpgスイスでは、9月16日時点のワクチン接種率は、61.2%で、日本の接種率65.3%を下回っている
 

接種により新型コロナウイルス感染が完全に防げるわけではないとはいえ、3Gルールの義務化のおかげで、より安心して生活できると歓迎の向きはある。一方、接種を強要されていると感じる人たちもいる。下記は、強要に従った人たちの声だ(スイス放送協会)。

・20歳男性 レストランやプールに行きたいので接種することにした。これまでの政府の感染対策措置は非常に良いと評価していたが、3Gルールの義務化で評価は非常に悪くなった。

・16歳女性 接種を巡る議論を聞いて、接種をずっと先延ばしにしていた。3Gルールが義務になり、これから自由な時間を家だけで過ごすことになるのは嫌なので接種を決めた。

・24歳女性 2~3年様子を見ようと思っていたが接種した。大学で3Gルールが導入されることになったため。教育を受ける権利は保証されるべきで大学がこのルールを導入するのは差別だと感じつつ、普通に生活するためには摂取するしかないと思った。

外出控え、抗議の署名を集める「接種回避派」

しかし、どうしても接種したくない人たちは、今後4カ月間は外出を控えるとみられる。スイスでは、PCR検査は最低でも1万4千円、抗原検査でも6500円はかかる。頻繁に外食する人や定期的にフィットネスセンターに行く人にとっては金銭的負担が大きい。2、3日の有効期限しかない陰性証明を毎回取得するのも手間だ。

筆者の周囲で摂取回避派の数人に聞いたところ、「行動制限するしかない。友人とレストランやカフェで会えないこと、美術館やコンサートに行けないことは残念」「3G証明でコロナ禍が収まるとは思えないし、差別だと思う。残念だ」「子どもも含めて、外食には行かないようにする」という答えが返ってきた。

3Gルールに反対の人たちは「ワクチン接種の強制だ」と各地でデモを行い、「検査を無料にすべき」と政府に抗議するための署名を集めている。

全員が3Gなら「マスクなし」可能

3Gルールは、ノーマルな生活に早く近付くための手段だ。スイスでも、多くの場所でまだマスク着用が義務付けられているが、9月13日からは証明書を持っている人だけが集まったなら、レストラン(屋内)などではマスクなしで済む。職場でも、3Gの人たちのみならばマスクをする義務はない。

イベントも同様だ。筆者は9月15日、チューリヒで100人規模の環境関係のカンファレンスに出席した。会場入り口で3Gかどうかのコントロールを受けた際「マスク着用は任意です」と言われた。中に入ったら着用していたのはほんの数人で、驚いた(窓を開け、ドアも締め切らず換気はしていたが)。「マスクなんて嫌。本来のノーマルな状況で過ごしたい!」。そんな、多くのスイス人たちの本音を見た気がした。

病院の集中治療室にいる新型コロナウイルス感染者の多くがワクチン未接種だと報じられる中で、「意固地に接種せず、迷惑をかけている」という意見は理解できる。しかし、個々人に長期の副反応を予言してくれる専門家などいないのだから、接種を回避したい気持ちもわかる。政府は検査の無料化を検討しているというが、少なくともそうしないと「ちょっと行き過ぎ」の感は否めない。


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

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