コラム

AIはだませる?──サイバーセキュリティにAIを使う期待と不安

2018年07月02日(月)16時30分

サイバーウィークで演説するネタニヤフ首相

<イスラエルで大きなサイバーセキュリティのイベントが開かれた。サイバーセキュリティにAIを使うというアイデアへの期待と不安>

今から35年前の1983年3月、米国のロナルド・レーガン大統領は、ソビエト連邦の核ミサイルに対抗するスターウォーズ計画を発表した。

そのおよそ2カ月後、『ウォーゲーム』という映画が公開された。コンピュータが暴走し、危うく米国とソ連の間で核戦争が起きそうになるというストーリーである。

米国大統領の別荘があるキャンプ・デービッドでレーガン大統領がこの映画を見た。ホワイトハウスに戻ったレーガン大統領は、統合参謀本部議長に対して、「こんなことは本当に起こる可能性があるのか」と聞いた。「調べます」と統合参謀本部議長は答えた。一週間後、統合参謀本部議長は、「大統領、お考えよりも問題はいっそう悪いものになっています」と答えた。

そこから米国政府内での検討が始まった。まだパーソナルコンピュータがほとんど普及せず、一般の人たちがインターネットを使うずっと前に、米国政府はサイバー攻撃の可能性を検討していたことになる。

米国が発射したミサイル

レーガン大統領が映画を見てから3カ月後の1983年9月1日、アラスカから韓国に向かって飛んでいた大韓航空機がソ連によって撃墜され、269人の命が奪われた。西側からの報復を恐れたソ連は高度な警戒態勢に入った。

当時のソ連は、米国のミサイル発射を監視するために人工衛星による早期警戒システムを展開していた。9月26日の真夜中過ぎ、そのシステムが警報を出した。米国がソ連に向けて核ミサイルを発射したという警報である。

モスクワ郊外の掩蔽壕で任務に当たっていたペトロフ中佐は、ミサイル発射の警報を上官に報告する責任を負っていた。掩蔽壕の中ではサイレンが鳴り響き、コンピュータのスクリーンには「ミサイル発射」の文字が出ている。

しかし、ペトロフは確信が持てなかった。早期警戒システムはまだ新しく、システムのバグによるエラーかもしれないと思い、彼は待った。

すると二発目のミサイルが発射された。そして三発目、四発目、五発目。画面の文字は「ミサイル攻撃」に変わっている。核攻撃が始まっていることを示している。モスクワにミサイルが落ちるまで数分しかない。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税、国内企業に痛手な

ワールド

原油先物5週間ぶり高値、トランプ氏のロシア・イラン

ビジネス

トランプ関税で目先景気後退入り想定せず=IMF専務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story