コラム

来日25年のフランス人が気付いた、日本の「あり得ない」裏の顔

2021年08月28日(土)12時28分
西村カリン
東京

Free art director-iStock

<日本を「理想の国」と感じた筆者。その良さは今も変わらないが、「日本ではあり得ない」はずのことを目にすることが増えたという>

25年前に初めて来日したとき、日本という国にいい意味でショックを受けた。最初の印象は非常に良かった。ほぼ全てのことが素晴らしく感じられ、大好きになった。当時はただの旅行だったが、「いつか日本に住む」と思って、すぐに準備を始めた。そのときは、日本は理想的な国で、悪いことはほぼ起こらないと確信していた。

パリを離れて東京に住み始めると、まず治安の良さに気付いた。サービスの良さや、駅員や店員がお客に対して怒らないこと、電車が時間どおりに来ること、落とし物が戻ってくる場合が多いことにも感動した。反対に、自国の弱点を山ほど発見したと言ってもいい。

25年たった今はどうか。治安はほぼ変わらず、不安を感じるときはあまりない。サービスは現在もすごくいいし、電車も時間を守る。記者として外を飛び回っている私は恵まれた日常を過ごしている。

ただ年々、気になることが増えてきた。取材や私生活を通して日本の社会の裏側を知り、日本では絶対に起こらないと思っていたことが次々と起こるのを認識するようになった。

「まさか日本でそれはあり得ない」

例えば、名古屋出入国在留管理局での死亡事件。今年3月6日に、施設に収容中だったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった。当時33歳だった(写真は収容中の映像を確認後の遺族、8月12日)。

私は4月頃に支援団体を取材したが、彼らが説明する状況を聞いて、「まさか日本でそれはあり得ない」と思った。例えば中国や中東の国なら、残念ながらびっくりはしなかったが、日本でこんな事件が起こるのは悪い意味でショックだった。

入管では以前にも死亡事例があった。だが今回は支援団体や弁護団、記者のおかげでこれまでより詳細が次々と出てきて、いかに残酷な扱いだったかが分かった。

なぜ入管の一部職員に人間性がなくなってしまったのか。彼らは一見、普通の日本人で、職場の外ではとても優しく礼儀正しい人であるかもしれない。おそらく25年前に比べて不法滞在中の外国人が多くなり、それに伴い管理の問題が増えたと思われるが、原因はそれだけではないだろう。

数年前に私が取材した法務省の官僚が、不法滞在中の外国人は「早く自分の国に帰ってほしい」と非常に厳しい発言をしていたことを思い出した。そんな冷酷な態度が今回の事件とも関係があると思う。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story