最新記事
映画

ボブ・マーリー伝記映画のグリーン監督が大切にした「ボブのスピリチュアリティ」

2024年5月24日(金)11時09分
大橋 希(本誌記者)

newsweekjp_20240524013926.jpg

©2024 PARAMOUNT PICTURES

――家族がプロデューサーとして参加したのは支えになったと思うが、反対にプレッシャーを感じたりはしなかったか。

自分は意外と頑固なところがあって、許可をもらってからやり始めるのではなく、自分の道を突き進んで、もし失礼があったら後から謝るようなタイプ(笑)。もちろん人の話はよく聞くが、自分がどう動けばいいかはよく分かっているつもりだ。

幸いにも、私はウィリアムズ姉妹の映画『ドリームプラン』で、「自分の親についての映画を作ろうとしている家族」と話し合い、共同作業をするという経験をした。

そのとき経験から、物語を「映画という言語」で伝えるのが私の役目だと理解していた。それは今回とても役に立った。私は常に映画の視点から語り、「家族」ではなく「映画」が何を必要としているのかを考えた。そうすれば、たとえ相手と議論になりそうな状況が出てきても助けになる。でも、とにかく協力的な家族たちだったのでありがたかった。

――ボブはレゲエ界や音楽界だけではなく、広くカルチャーアイコンとして愛されている。その理由は何だと思うか。

難しい質問だけど、とにかく彼は見た目や歌い方、しゃべり方、動きまで、彼は何もかもが唯一無二のレジェンド。同時に、彼が体現しているのは、ユニークなアンダードッグの物語だ。

(首都キングストンの)トレンチタウンという貧困地区で生まれ育ち、一時は母親と父親の両方に捨てられて、ホームレスだったこともある。そこから這い上がって高みに上りつめたところもみんなが心引かれたり、憧れたりする部分だろう。そして、アイコンであり伝説であると同時に、私たちと変わらない人間らしさを持ち合わせているのも共感できる点だと思う。

――この映画には夫婦の愛、ボブの複雑な生い立ち、ジャマイカの人々のルーツ、音楽の話などいろいろな側面がある。それぞれの物語のバランスの取り方は難しくなかったか。

それらを調和させ、散漫にならないようにするため時間軸を絞り込み、舞台を1976~78年の3年間にした。銃撃事件で殺されかけ、家族と離れ離れで暮らし、『エクソダス』という名盤を作り、それによって欧米で一気に知名度が上がって世界的スターになり、癌の宣告をされ......と彼の人生が激変する最もドラマチックな時代だ。

もう1つの大切な要素がスピリチュアリティ(精神性)。それはボブにとってすごく大切なものだった。スピリチュアリティの映像化ほど難しいものはないが、いろいろ試行錯誤した結果、ボブが「ビジョン」を見たという家族の証言も受けて、焼け野原から逃げる場面を作った。あのようなメタファーで、彼の中にあった精神性を表現しようとした。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

ベネズエラ沖で2隻目の石油タンカー拿捕、米が全面封

ワールド

トランプ氏関連資料、司法省サイトから削除か エプス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中