最新記事
テクノロジー

「政府に都合の良い回答ばかり...」中国向けiPhoneにアップルが搭載しようとしている「ゆがんだ生成AI」の実態

Apple’s AI Problem

2024年4月23日(火)18時14分
マイケル・キャスター(英人権団体アーティクル19のアジア・デジタルプログラム・マネジャー)
文心一言(アーニーボット)のロゴマーク

百度の生成AIツール「文心一言(アーニーボット)」を搭載したスマホは増えている  PHOTO ILLUSTRATION BY FLORENCE LO-REUTERS

<新疆について尋ねれば政府のプロパガンダをそのまま答え、香港民主化運動のことを聞くとチャットウィンドウを閉じてしまう。情報統制が他国の生成AIに悪影響を及ぼす懸念も>

アップルは最近、中国市場向けのiPhoneに、中国企業が開発した生成AI(人工知能)ツールを搭載するべく、交渉を続けているという。最も実現可能性が高いのは、百度(バイドゥ)の「文心一言(アーニーボット)」だ。

中国企業が構築する生成AIツールである以上、それが作り出すコンテンツが、中国共産党の方針に沿ったものになるのは間違いない。

アップルはこれまでにも、巨大な中国市場へのアクセスを維持するために、中国政府のさまざまな要求をのんできた。だから今回、中国市場向けとはいえ、(おそらく)ゆがんだ生成AIツールを搭載することに前向きになっていると聞いても、さほど大きな驚きではない。

しかしこれは、この分野における中国の影響が着実に大きくなっていることを示す出来事でもある。実現すれば、この提携は、生成AIに対する中国の影響を加速させ、デジタル領域における人権問題に悪影響を及ぼすだろう。

中国がAIに注力するようになったのは、グーグルの囲碁AI「アルファ碁」がきっかけだったとされる。

2017年にアルファ碁が世界最強の棋士・柯潔(コー・チエ)を破ると、数カ月後には国務院が「次世代人工知能開発計画」を発表。30年までにAIの理論、技術、応用において世界のトップに立つと誓い、以来、AIに関する政策やガイドラインを多数打ち出してきた。

サムスンも既に屈した

22年11月に米新興企業オープンAIが生成AI「チャットGPT」を発表すると、中国当局は翌23年2月、チャットGPTへのアクセスを阻止するよう国内の大手テクノロジー企業に命じた。

その理由は、この対話型AIが、「アメリカのプロパガンダを拡散している」から。つまりチャットGPTが生成するコンテンツの一部は、中国では政府の検閲に引っかかる内容だということだ。同じ月に百度が独自の対話型AIを開発すると発表したのは、偶然ではないだろう。

さらに23年7月、中国サイバースペース管理局(CAC)は、生成AI規制案を発表した。中国の「社会主義核心価値観」を堅持して、国家の転覆や分離を扇動したり治安を脅かしたり国のイメージを傷つけたり「偽」情報を拡散したりするのを禁止する。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中