最新記事
災害

数万人行方不明は人災だった! 危険性指摘も修復せず、洪水でダム決壊したリビアで政府に怒り

2023年9月26日(火)11時05分
ロイター
ワディにある決壊したダム

水文学者のアブドゥル・ワニス・アシュール氏がリビア東部の港町デルナを守るダムシステムの調査を始めた17年前、住民が危険と隣り合わせの状況に置かれていることは既に誰の目にも明らかだったという。写真は洪水後の13日、ワディにあるダムを撮影した衛星写真。マクサー・テクノロジーズ提供(2023年 ロイター)

「彼らは知っていた」──。

水文学者のアブドゥル・ワニス・アシュール氏がリビア東部の港町デルナを守るダムシステムの調査を始めた17年前、住民が危険と隣り合わせの状況に置かれていることは既に誰の目にも明らかだったという。

「データ収集により、ダムの亀裂や降雨量、繰り返す洪水など、デルナ渓谷には問題が山積しているとわかった」とアシュール氏はロイターに明かした。

「以前にも警告はあった。このことは、ダムを査定しに訪れた水道局の専門家や外国企業を通じてリビア政府もよく知っていた」と同氏は言う。

アシュール氏は昨年、ダムの緊急メンテナンスを実施しなければ、町が大災害に見舞われる可能性もあると警鐘を鳴らす学術論文を発表した。そして「大災害」は今月、同氏が指摘した通りの展開を迎えた。

一年の大半は枯れているデルナ・ワディ川が9月10日夜、丘陵地帯に降り注ぐ雨水を溜め込むためのダムを破壊し、下流域にある町の大部分を流し去った。数千人が死亡したほか、いまも数万人が行方不明者となったままだ。

アブドゥルカデル・モハメド・アルファカクリさん(22)は、自身は4階建ての自宅の屋根に登り助かったが、同様に自宅の屋上に避難した近隣住民が海に流されていくのを目撃したと話した。

「ライトを付けた携帯電話を持ち、手を振りながら叫んでいた」

倒壊した家屋の下敷きになったり、浜に打ち上げられたりした遺体の多くが未だ収容されていない。リビア近代史上最悪の災害を防げたかもしれない警告が無視されていたことに、多くのリビア人が憤っている。

修復工事の契約

当局がデルナ上流部のダム修復を試みたのは、トルコの企業に工事を発注した2007年にさかのぼる。

だが2011年、リビアで北大西洋条約機構(NATO)の後ろ盾を受けた蜂起や内戦が発生。長年にわたって独裁体制を敷いていたカダフィ政権が打倒された。その後数年間、デルナは国際武装組織「アルカイダ」や過激派組織「イスラム国(IS)」などイスラム過激派の支配下に置かれた。

トルコ企業アーセルは、デルナのダム修復プロジェクトが07年に開始し、12年に完了したとウェブサイトに記載している。リビア水資源省ダム崩落調査委員会のオマール・アルモガイルビ報道官はロイターに対し、修復の請負業者は治安情勢の悪化により工事を完了できず、要請を出しても戻ってくることはなかったと明かした。

モガイルビ氏は、仮に修復工事が完了していればデルナの被害を抑えることができたかもしれないと認めた一方、「ストーム・ダニエル」がもたらした大洪水の水位はダムの貯水容量を超えていたため、ダムは決壊していた可能性が高いと指摘する。

2021年、リビア監査局の報告書は、デルナ上流域にあるダム2カ所のメンテナンス作業を進められなかった理由として水資源省の「怠惰」を挙げた。

報告書では、ダムの維持管理費や修理費として230万ユーロ(約3億6300万円)が割り当てられているものの、そこから差し引かれた金額はわずかだ。資金が実際に使用されたかどうかや用途については明記されていない。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中