最新記事
東シナ海

「中国海警局の妨害を排除せよ!」 フィリピン、海軍も待機し座礁船への補給に成功

2023年8月23日(水)17時23分
大塚智彦

フィリピンが南シナ海の自国のEEZに座礁させた「シエラマドレ号」 Erik de Castro - REUTERS

<老朽化する船を補強する資材が搬入されれば強硬手段も?>

フィリピンの西フィリピン海タスクフォースは22日、南シナ海南沙諸島の自国の排他的経済水域(EEZ)にある座礁船「シエラマドレ号」に食料や生活物資を搬入する補給任務が無事終わったことを明らかにした。

タスクフォースによると「シエラマドレ号」があるアユンギン礁周辺海域には中国の海警局船舶や民兵が乗り込んだ民兵船が22日も展開して、補給活動を妨害、阻止しようとしたものの、衝突や危険な行動には発展せず無事に物資を届けることができたという。

万が一の事態に備えてフィリピン軍は周辺海域に海軍艦艇を派遣し、さらに米軍が状況を逐一注視していたこともあり、中国側も強硬手段に訴えることを避けた可能性がある。

中国側は妨害、阻止行動

タスクフォースの発表によると、フィリピン沿岸警備隊(PCG)の巡視船「カブラ」と「シンダガン」が物資を運ぶ補給船「ウナイザ1」と「ウナイザ2」に同行してアユンギン礁に接近。22日午前9時過ぎに食料や生活必需品のシエラマドレ号への補給を終了したという。

補給作業時に周辺海域には中国海警局船舶6隻、民兵船2隻の他に中国海軍の艦艇3隻も展開。このうち海警局船舶と民兵船がPCGの巡視船、補給船の進路を妨害したり、補給任務を阻止しようとしたものの、放水銃による放水やレーザー照射などの「危険な敵対行為」は発生しなかった。

フィリピン、中国両国の海軍艦艇が周辺に展開・待機していたことに加えて米政府は「比のEEZにおける中国の危険な行為は米比相互防衛条約に基づく武力行使の必要要件になる」と中国側に警告していたこともあり、中国側が自制したとみられている。

中国は人道的見地を強調

フィリピン側は今回の補給任務成功を受けて「今後も必要な補給を継続する」としてアユンギン礁での実効支配を続ける決意を表明している。

これに対し中国は今回の補給は「人道的見地から一時的に補給を許した」との立場を示し、今後も比側が老朽化している座礁船の補強のための建築資材などを運ぼうとすれば「人道的見地」とは異なる対応を取るとして強硬手段に訴えても阻止する姿勢を改めて表明した。

過去には放水、レーザー照射

今回、問題となった座礁船は、フィリピンがアユンギン礁周辺海域の海洋権益を主張するために海軍艦艇だった「シエラマドレ号」を1999年意図的に座礁させたものだ。

これに対し中国は南シナ海の大半を自国の海洋権益が及ぶ範囲として一方的に「九段線」を設定している。このため南シナ海周辺のベトナム、マレーシア、ブルネイ、フィリピンなど各国との間で島嶼や環礁の領有権争いが生じる事態が続いている。

フィリピンはこうした中国の「九段線」が違法であるとして2014年に当時のベニグノ・アキノ大統領候がオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)に訴えた。

PCAは2016年に「九段線とその囲まれた海域に対する中国が主張してきた歴史的権利は国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」との判断を下した。

しかし中国側はこのPCAの判断を一切無視して、その後も「九段線」内の島嶼や環礁での埋め立てや滑走路やレーダー施設などの建造物建築を続け、軍事基地化を続けている。

試写会
『クィア/Queer』 ニューズウィーク日本版独占試写会 45名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中