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生還劇

脅威にさらされる「伝統の英知」...子供たちのアマゾン生存は「単なる奇跡」ではなかった

NOT A MIRACLE IN THE JUNGLE

2023年6月27日(火)13時33分
エリラン・アラジ(エルサレム・ヘブライ大学研究員)
4人の子供たち

行方不明になっていた先住民の4人の子供たちは、アマゾンの密林でコロンビア軍に救出された(6月9日、写真は一部加工) COLOMBIAN PRESIDENCYーREUTERS

<行方不明だった幼いきょうだい4人が約40日ぶりに救出。その陰には先住民が受け継いできた、森についての深い知恵があった>

「ジャングルの奇跡」に、世界中が沸いた。

南米コロンビア南部のアマゾンの密林で行方不明になっていた先住民の幼いきょうだい4人が、6月9日、約40日ぶりに救出された。

乗っていた小型飛行機が5月1日に墜落。同乗していた母親や操縦士ら大人3人は死亡が確認されたが、子供たちの行方は分かっていなかった。

4人を発見したコロンビア軍兵士の第一声は「奇跡、奇跡、奇跡!」だった。だが、人類学研究のためにこの地域の先住民族アンドケと共に1年余りを暮らした筆者は、これを簡単に奇跡とは表現できない。

少なくとも普通の意味で言う奇跡ではない。子供たちが生き延びて救出されたのは、先住民が代々受け継いできた森の複雑さに関する深い知識と適応力のおかげだ。

子供たちの捜索活動が続く間、私は彼らの曽祖母の姉妹であるラケル・アンドケと連絡を取っていた。儀式用の共同の家マロカの所有者を意味する「マロケラ」と呼ばれる長老の彼女は、地域の子供たちには主体性と判断力があり、体も丈夫だから、必ず生きて帰ってくると何度も繰り返した。

この地域では小学校に入る前から、両親や親戚に付き従って、さまざまな活動をする。狩猟、釣り、川下り、蜂蜜や果物の採集......。

4人の子供たち──レスリー、ソレイニー、ティエン、クリスティン──も、そうやって実践的な技術や知識を身に付け、今回生かすことができた。

先住民の子供たちは幼い頃から、密生する草木をかき分けて道を切り開いたり、どの果物が食べられるかを見分ける方法を学ぶ。飲み水の見つけ方、雨よけの作り方、動物を捕らえる罠の仕掛け方も心得ている。

アマゾンに住む子供たちは、都会の子供が遊ぶ玩具やゲームなどに触れる機会はほとんどない。当然ながら木登りがうまくなり、小舟のオールや斧といった大人の道具に触れる。身体活動への理解を深め、さまざまな植物の使い道についても知識を蓄えていく。

狩猟動物の殺し方や皮の剝ぎ方など、先進国ではわざわざ子供にさせないような活動も経験する。これらは貴重な動物学のレッスンになり、精神力も鍛えられる。

家族や親戚でジャングルへの小旅行に出るときは、鬱蒼と茂る森の中で空を見上げ、太陽の位置を頼りに進んでいく。

アマゾンでは大きな川がたいてい太陽の動きとは反対の東向きに流れているため、太陽を頼りにすれば主要河川に近づける。4人の子供が残した足跡や物品の跡をたどると、アパポリス川に進んでいた節がある。そこまで行けば見つけてもらえると思ったのだろうか。

暮らしの全てが学びとなる

子供たちは食用になる草木や花をどこで見つけられるかも、親や長老から学んでいただろう。木の種類によっては、その周りにキノコが生えることも教わっていただろう。

語り継がれる昔話に込められた知識も、森に分け入る際の貴重な情報源となる。神話に登場する動物たちには知性があり、いたずらをしたり誘惑したり、命を助け合ったりする。

先住民以外には理解しにくいかもしれないが、森を舞台にしたこれらの神話は人間以外の無数の生き物たちの複雑な相互関係をうまく拾い上げている。

先住民の知識は、人間と動植物の関係に光を当てる。そして両者が協力しながら環境を守り、生態系に取り返しのつかない害を及ぼさないようにする。

こうした洗練された知識は、数千年にわたって育まれてきた。その間に先住民は森に順応しただけでなく、自分たちの身をもって森をつくり上げたのだ。

幼い頃からたたき込まれる豊富な知識は、自然に身に付いていく。農作物の栽培や収穫の方法にも取り込まれ、子供たちは幼い頃からそうした知識に触れる。

今回の出来事を先進国の人々が「奇跡」と呼んだ理由の1つは、きょうだいで最年長である13歳の長女レスリーの行動だ。母親が亡くなった後にレスリーは、飛行機の墜落時に生後11カ月だったクリスティンを含む3人の妹弟の面倒を見た。

だが先住民の家庭では、年長の娘が幼い頃からきょうだいの母親代わりを期待されるのは普通のことだ。一家の遠縁だというイリス・アンドケ・マクナは、私にこう語った。

「一部の白人(非先住民)は、子供に庭仕事をさせたり、長女に弟の世話をさせるのは、いけないことのように思うだろう。でも私たちの感覚では、とても素敵なこと。子供たちは自立している。だからレスリーは、ずっと妹弟の面倒を見られた。しっかり者になっていたから、妹弟に何が必要かが分かっていた」

脅威にさらされる伝統の英知

4人の子供たちの行方が知れなかった約40日間にわたり、長老やシャーマンは民俗信仰に基づく儀式を執り行った。スペイン語で主人を意味する「ドゥエニョ」という存在と、人間との関係性についての儀式だ。

ドゥエニョは、森に生息する動植物の守護霊とされる。子供は命名式でドゥエニョに紹介されることで地域とのつながりを認められ、生まれた土地で繁栄する資格を与えられる。

捜索期間中に長老は、カケタ州中部各地の共同の家マロカや、墜落現場を先祖伝来の土地と見なす他の先住民社会で、ドゥエニョと対話していた。ラケルは私にこう説明した。

「シャーマンは聖地と交信する。精霊にコカとタバコをささげて、こう言う。『これをどうぞ。代わりに孫たちを返してください。あの子たちは私のもので、あなたのものではありません』」

こうした信仰と慣行は、カケタ州中部に暮らす先住民の私の友人たちには大きな意味を持つ。彼らは子供たちが生きて救出されたのは、コロンビア軍の技術力のおかげではなく、霊的な力のためだと固く信じている。

こうした考え方を受け入れるのは、先住民以外には難しいかもしれない。だがこういう信仰こそが、サバイバルの闘いに耐えるために不可欠な信念と精神力を子供たちに植え付けていた。4人を捜す先住民たちが決して諦めなかったのも、この信仰のおかげだろう。

子供たちには分かっていた。自分たちは森で死ぬような運命ではない。祖父母やシャーマンが天と地を動かし、生きて連れ戻してくれる、と。

ただし残念ながら、こうした伝統的な英知は脅威にさらされている。アグリビジネス(農業関連)の巨大企業や鉱山業、不法行為、国家による怠慢、先住民の同意を得ずに進む開発......。これらがアマゾンの人々を苦しめている。

貴重な知識が埋め込まれている生活基盤。その基盤となる土地。そして知識を維持し、発展させ、伝えていく人々──これらが危機にさらされている。まさに生命に奇跡をもたらす知識と技能を守ることが、いま至上の課題なのだ。

The Conversation

Eliran Arazi, PhD researcher in Anthropology, Hebrew University of Jerusalem and the School for Advanced Studies in the Social Sciences (Paris)., Hebrew University of Jerusalem

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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