最新記事

核戦力強化をはかる中国を核軍備管理の枠組みに引き入れることは可能か

2023年2月27日(月)17時30分
池上敦士(富士通総研 上級研究員、防衛技術協会 客員研究員)

核兵器を含めた際限のない軍備拡張競争は財政的負担が必至(写真はイメージ)masterSergeant-iStock

<際限のない軍備拡張競争の財政負担は無視できないものであり、中長期的には軍備管理交渉につながる可能性もありうる。そもそも核軍備管理交渉経験のない中国...歴史が示す、現代への教訓とは?>

前稿では、中国・人民解放軍の核戦力の向上が米・中・ロにおける核軍拡競争を引き起こす可能性について言及した。また、中国が均衡した核戦力を背景に通常戦力の活用をより積極的に行うリスクについても指摘した。

今回は、逆に中国が将来的に核軍備管理・軍縮の枠組みに関心を示す可能性について述べたい。

まず、今後10~20年の時間軸でみた場合、拡大が続く米中の軍備拡張競争がどこまで維持可能かの観点を検討したい。

米国の議会予算局(Congressional Budget Office:CBO)は、国防総省の支出が2031年には対21年比で10パーセント増加することを見込んでいる。 一方、連邦政府の公的債務残高が2022年に初めて31兆ドルを超えるなど、財政全体の負担は増加傾向にある。

また、中国の軍事予算は2010年代の約100億ドルから2021年には倍以上の200億ドルと推計されており 、中国の経済規模が拡大し続けると仮定すると、今後も増加を続けると考えられる。ただし、中国の対GDP比公的債務残高は米国よりも高いため 、軍備拡張競争を現在のペースで進めることができるかは不透明と言える。

こうした状況をふまえると、今から10~20年の時間軸でみて、仮に米中両国が軍備拡張競争の財政負担に耐えられなくなり、かつ両国が地域の安定化を志向する場合、核軍備管理交渉が発生する可能性がある。

歴史上の過去事例としては、冷戦時に米ソ初の核軍備管理を目的とした「戦略兵器制限交渉(Strategic Arms Limitation Talk I:SALTI)」が1972年に合意されている。

SALTIは最近の報道などで言及されることが少ないが、米ソの核軍備管理・軍縮の基礎を形づくった重要な交渉のため、次に取り上げたい。

歴史に学ぶ、SALTIが果たした意義

1960年代前半~半ばは米ソ冷戦がとりわけ激化した時代であった。1962年のキューバ危機、1964年のトンキン湾事件をきっかけとした米国のベトナム戦争介入の拡大など、両国関係の緊張はこれまでにない高まりを迎えていた。

ソ連の核戦力も60年代には米国を急速に追い上げていた。一方、キューバ危機による全面核戦争のリスクに直面した米ソ両国はホットラインを設置するなど偶発的な核エスカレーションリスクを回避する取り組みも進めていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

都区部CPI、12月は+2.3%に大幅鈍化 エネル

ワールド

米、ナイジェリアでイスラム過激派空爆 「キリスト教

ビジネス

鉱工業生産11月は2.6%低下、自動車・リチウム電

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、個人の買いが支え 主力株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中