核戦力強化をはかる中国を核軍備管理の枠組みに引き入れることは可能か
核兵器を含めた際限のない軍備拡張競争は財政的負担が必至(写真はイメージ)masterSergeant-iStock
<際限のない軍備拡張競争の財政負担は無視できないものであり、中長期的には軍備管理交渉につながる可能性もありうる。そもそも核軍備管理交渉経験のない中国...歴史が示す、現代への教訓とは?>
前稿では、中国・人民解放軍の核戦力の向上が米・中・ロにおける核軍拡競争を引き起こす可能性について言及した。また、中国が均衡した核戦力を背景に通常戦力の活用をより積極的に行うリスクについても指摘した。
今回は、逆に中国が将来的に核軍備管理・軍縮の枠組みに関心を示す可能性について述べたい。
まず、今後10~20年の時間軸でみた場合、拡大が続く米中の軍備拡張競争がどこまで維持可能かの観点を検討したい。
米国の議会予算局(Congressional Budget Office:CBO)は、国防総省の支出が2031年には対21年比で10パーセント増加することを見込んでいる。 一方、連邦政府の公的債務残高が2022年に初めて31兆ドルを超えるなど、財政全体の負担は増加傾向にある。
また、中国の軍事予算は2010年代の約100億ドルから2021年には倍以上の200億ドルと推計されており 、中国の経済規模が拡大し続けると仮定すると、今後も増加を続けると考えられる。ただし、中国の対GDP比公的債務残高は米国よりも高いため 、軍備拡張競争を現在のペースで進めることができるかは不透明と言える。
こうした状況をふまえると、今から10~20年の時間軸でみて、仮に米中両国が軍備拡張競争の財政負担に耐えられなくなり、かつ両国が地域の安定化を志向する場合、核軍備管理交渉が発生する可能性がある。
歴史上の過去事例としては、冷戦時に米ソ初の核軍備管理を目的とした「戦略兵器制限交渉(Strategic Arms Limitation Talk I:SALTI)」が1972年に合意されている。
SALTIは最近の報道などで言及されることが少ないが、米ソの核軍備管理・軍縮の基礎を形づくった重要な交渉のため、次に取り上げたい。
歴史に学ぶ、SALTIが果たした意義
1960年代前半~半ばは米ソ冷戦がとりわけ激化した時代であった。1962年のキューバ危機、1964年のトンキン湾事件をきっかけとした米国のベトナム戦争介入の拡大など、両国関係の緊張はこれまでにない高まりを迎えていた。
ソ連の核戦力も60年代には米国を急速に追い上げていた。一方、キューバ危機による全面核戦争のリスクに直面した米ソ両国はホットラインを設置するなど偶発的な核エスカレーションリスクを回避する取り組みも進めていた。